国内初の内臓脂肪減少薬、現状は
~販売開始から4カ月~
宮崎医師は「肥満は万病の元。初期に抑えられる薬はとても有効だ。薬局で購入できることで多くの人が手にしやすくなったのはいい」と話す
◇便漏れ、本当に起こる?
アライは摂取した脂肪の約25%を便として排出する。脂肪分の多い食事を取るほど、薬効による脂肪排泄量が増える。主な特有症状は①便や油が無意識のうちに出る②おならと一緒に便や油が出る③便に脂肪が混ざる―など。また、使用後の便器に油が浮くこともある。
SNSで発売前後から「勝手に便が漏れたら大変だ」「服用中はおむつ装着が必須」などの書き込みがあり、飲むと必ずこうした事態に陥るという情報が先行。藤田さんは「全員がそうなるわけではない。情報発信が行き届かなかった」と振り返る。
臨床試験では、全体の41.7%の人は特有症状が出なかった。その多くは服用2週間ほどで収まる傾向であることが確認された。これは、油が混ざった便を目の当たりにすることで、意識的に食事の脂質摂取量を抑える人が増えたためと推測される。油っぽい食事、食習慣を変えるきっかけにもなりそうだ。
公益財団法人結核予防理事・結核予防会総合健診推進センタ―所長で肥満症予防協会副理事長の宮崎滋医師も「特有症状はこの薬の主な作用。飲む際にはあらかじめ理解して対処してほしい」と指摘する。心配な人はナプキンを付けるなどの対策が考えられる。
逆に「薬を飲んでいるのに油便が出なくなってしまった。効いているのか心配」などの問い合わせもあり、服用中でも脂肪分の少ない食事を取れば、症状発現まで至らないことが認知されていなかったようだ。「薬を飲むと油が出続ける、ということではない。どんな食事を取れば症状が出ないかも、だんだん分かるようになる」と藤田さんはアドバイスする。
◇ダイエット薬ではない
最も強調されなければならないのは、ダイエット薬ではないということだ。薬を飲めば痩せるということはない。処方薬に比べれば手に入れやすいため、安易なダイエットに使われないよう、メーカー側も注意しているという。
過剰に蓄積した内臓脂肪は、糖尿病や脂質異常症などの将来的な発症率を高めることは知られている。こうした疾病の治療薬でもない。藤田さんは「発病の可能性を未病の時点で低めていく予防医学の観点から薬は開発された」と話す。
宮崎医師も「これまでは、厳しい食事療法と運動しかなかった。これらをサポートする薬として期待できる」とした上で「薬さえ飲めば何を食べてもいい、というわけではない」と警鐘を鳴らす。アライの服用は、生活習慣の改善との併用が重要だ。
「生活習慣の記録を見ながら具体的にアドバイスする。みなさん意識が高く、次に見る時は実行できている」と薬剤師の曽根さん
◇薬剤師が生活習慣のアドバイスも
アライは6日分、30日分の2タイプで販売されているため、継続するには飲み切ったら薬局へ行く必要がある。「処方だけでなく、生活習慣の改善のアドバイスを行っている」と薬剤師の曽根さん。お薬手帳アプリのチャット機能も駆使して、窓口のハードルも下げた。管理栄養士が常駐する店舗は、よりきめ細やかな相談ができるようになった。曽根さんは「これまでは、発症者への薬の処方というコミュニケーションしかなかった。アライの処方では、病気になる前の段階でアプローチできるようになった」と新たな役割を感じている。症状や薬だけでなく、健康についての相談も増えてきた。
「地域の薬剤師、かかりつけ薬局として、頼れる存在になりたいと思っている。アライはその第一歩」(曽根さん)。藤田さんも「セルフメディケーションが注目されている中、この薬は転換点になるはず。なりたい姿になろうとする頑張りを、エビデンスが確立した医薬品がサポートしてくれる。今後は使用者のデータをしっかり分析して、後に続く開発にも役立てたい」と語る。(柴崎裕加)
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(2024/08/21 05:00)
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