骨膜でがん侵入を防ぐ
~新たな治療法開発に道(昭和大学 塚崎雅之教授)~
骨を包む膜が防御壁のようになって、がん細胞の侵入を止める―。昭和大学歯学部(東京都品川区)口腔(こうくう)生化学講座の塚崎雅之教授らがこうした研究結果をまとめた。免疫とは異なる視点の治療法として、口腔がんなどさまざまながんに展開の可能性があるという。

骨の断面図
◇負担大きい手術
骨の内部には骨髄腔(こつずいくう)というすき間があり、その中に骨髄が詰まっており、その骨全体を骨膜が包んでいる。塚崎教授によると、骨折したり、骨に細菌が侵入したりしたときに骨膜が厚くなることは、「骨膜反応」として200年以上前から知られていた。がんとの関係を明らかにした研究は、今回が初めてだという。
口腔がんは舌、歯茎など、口の粘膜にできるがんの総称。歯茎や口の底は粘膜のすぐ下に骨があるため、がんが進行すると骨に侵入する恐れがある。
「侵入した場合は、顎の骨の一部を切除しなければなりません。範囲によっては、手術後の顔かたちの変化、食事のしにくさなどで人生が大きく変わります。骨への侵入を防ぐ治療の確立は急務です」
◇厚い膜で防御
塚崎教授らのグループは、手術で採取した口腔がん患者8人の組織を用いて骨膜の機能を調べた。「がんが骨に入る直前の骨膜は、健常な部位の3~4倍に膨れていました。がんが近づいてきたため、厚みを増して防御していると考えられます」
マウスの実験では、「Timp1」というタンパク質が骨膜を厚くすることが分かった。「がんは酸素を多く消費するので、骨の周囲は低酸素状態になります。それを機にTimp1の産生が増えるとみられます」。Timp1が欠如したマウスでは骨膜が膨らまず、がんの侵入が進み、通常より早く死亡することも突き止めた。
このような結果から、「Timp1を含む薬で骨膜を厚くする治療法の開発が期待できます」と塚崎教授。目的として▽口腔がんの診断から手術までの間に、骨への侵入を防ぐ▽手術で取り残したがんの骨への侵入を防ぐ―ことを挙げた。一方、骨に侵入したがんが他の臓器に拡散する際にも、「膜で防ぐ」という考え方は応用できる可能性があるという。
「近年、免疫に着目したがん治療が効果を上げていますが、今回の研究は、非免疫系の細胞の働きを利用した全く新しい治療法につながります」と塚崎教授はみている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2025/04/24 05:00)
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