話題

へその緒で難病を治療へ
~国産で細胞医療実現、免疫療法への応用も~

 新しい多能性幹細胞としてiPS細胞が誕生して約20年、再生・細胞医療を実現するための研究が進む中、「間葉系細胞(MSC)」が改めて注目されている。骨髄由来のMSCは以前から利用されているが、材料は輸入に依存している。一方、臍帯(さいたい、へその緒)から抽出することで、国内での大量生産・安定供給の実現に期待が高まっている。細胞医療や免疫療法への活用、社会実装を目指し、開発をリードする専門家に話を聞いた。

東京大学医科学研究所付属病院 臍帯血・臍帯バンク施設長の長村登紀子医師

東京大学医科学研究所付属病院 臍帯血・臍帯バンク施設長の長村登紀子医師

 ◇過剰な免疫抑える

 MSCは幹細胞の一つで、①さまざまな細胞に分化する②炎症を起こしている部位や組織が傷ついた場所に集まり、炎症や過剰な免疫反応を抑える③組織を修復する―などの働きを持つ。骨髄、脂肪、臍帯、胎盤、歯髄などに存在し、健康な体を維持するキープレーヤーだ。

 この細胞が、移植片対宿主病(GVHD)に効果があるという研究成果が明らかになったと知り、「免疫療法にも役立つかも」と10年ほど前から研究を続けてきたのが、東京大学医科学研究所付属病院 臍帯血・臍帯バンク施設長の長村登紀子(ながむら・ときこ)医師だ。

 GVHDは造血幹細胞移植(白血病悪性リンパ腫など血液がんの治療法の一つ)の際の特有の合併症で、他人から移植された造血幹細胞に含まれるドナー由来のリンパ球が、患者の臓器を異物と認識して攻撃する、いわば免疫の誤作動。MSCはそれに対し、制御性T細胞を活性化させたり、マクロファージを炎症性から抑制型にスイッチングさせたりして、過剰な免疫を抑えると考えられている。

 長村医師は「MSCの生体内での働きは、全て解明されていない。ただ、治験では期待通りに効果が得られている。強過ぎる炎症に対する〝バッファー(緩衝作用)〟になっていると考えている」と説く。

液体窒素から発生する冷気で間葉系細胞を凍結保存するための容器。保存温度はマイナス150度くらい

液体窒素から発生する冷気で間葉系細胞を凍結保存するための容器。保存温度はマイナス150度くらい

 ◇へその緒から作る

 MSCを大量生産し、社会実装を目指すため、長村医師と連携するスタートアップ(新興企業)「ヒューマンライフコード」社の原田雅充社長は臍帯由来にこだわることについて「原材料として骨髄がこれまでは一般的で、これらは輸入に頼っているが、臍帯だと国産で賄える。採取は出産直後のため、ドナーに痛みなどはない。もちろん、臍帯は0歳の組織。ドナーの年齢にばらつきが出ない」。持続的に提供可能な点が強みだ。

 長村医師は使い勝手の良さを挙げる。例えば、胎盤からもMSCは採取できるが、ドロドロした材質は扱いづらい上、胎児と母親の細胞が混在する。一方、臍帯は全て胎児の細胞で構成されている。また、造血幹細胞移植では患者とドナー間の組織適合抗原(HLA)という白血球のタイプを合わせる必要があるが、MSC投与の時には考慮する必要がなく、「GVHDで使うのに適している」(長村医師)。

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