命に関わる「骨卒中」
~未然に防ぎ健康寿命延ばす(山陰労災病院 萩野浩院長)~
「卒中」という言葉には「突然起きる」という意味があり、高齢者の生活の質を大きく低下させる骨折は近年「骨(こつ)卒中」と呼ばれるようになった。元気な老後のために、「骨卒中の危険性をぜひ認識し、予防に努めてください」と山陰労災病院(鳥取県米子市)の萩野浩院長は強く呼び掛けている。

栄養や運動が大切
◇頻度も死亡率も高い
骨卒中は、高齢者の脚の付け根の大腿(だいたい)骨近位部骨折や背骨の圧迫骨折をいう。二つの骨折は頻度が高く、死亡のリスクも、骨折していない人に比べ、大腿骨近位部骨折では6.7倍、背骨の圧迫骨折では8.6倍にも及ぶ。しかも、大腿骨近位部骨折はほぼすべての人に手術が必要となり、治療後も筋力の低下から車椅子が必要になる、寝たきりになるなど、生活の質が著しく低下することが少なくない。
骨卒中の原因は主に骨粗しょう症だが、診断を受けても治療をしなかったり、治療を開始しても自己判断でやめてしまったりする人が非常に多いという。「骨折が命に関わる病気だという認識が薄いためでしょう」
萩野院長によると、一度でも骨折を経験した人は骨卒中のリスクも高いため60歳までに、骨折の経験がない人も65歳くらいまでに骨密度の検査をし、自分の骨の状態を知っておくのが望ましい。検査については整形外科やかかりつけの医師に相談するのがよい。「特に背骨の圧迫骨折は気付かないうちに起こる場合も多く、若い頃より3センチ以上身長が低くなっていたら要注意です」
◇栄養と運動で予防
骨卒中の予防は栄養と運動だ。栄養面ではカルシウムだけでなく、カルシウムの吸収を促進させるビタミンDも不可欠。干しシイタケやサケ、サンマなどは積極的に摂取したい。また、骨密度維持には、ジャンプやかかと落とし、リズミカルなウオーキングなどの、骨に体重をかける運動がよい。加えて「転倒防止のために、バランス感覚を養う運動も必要です」。目を開けて片足ずつ1分間立つことを1日3回程度行う。他にも椅子から立ち上がる運動や、太極拳のようにゆっくりとした動きでバランスを取る運動も効果的だ。
糖尿病や慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患などの持病があると骨粗しょう症が進行しやすいので、早めの対策を。また、高齢者の骨折原因の約8割が屋内の転倒であり、家具などの配置にも目を向けたい。
骨卒中は再発しやすいので、予防の継続が重要だ。「今は骨折をしっかりと予防する薬もあり、一定の骨密度に達したら治療をやめることも可能です。決して骨粗しょう症を放置しないでください」(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2025/06/26 05:00)
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