健康寿命縮める「骨卒中」
~要介護のリスク増大~
平均寿命と要介護にならずに生活を送れる健康寿命との差は大きい。男性より平均寿命が長い女性には健康寿命が肝心だが、骨粗鬆(そしょう)症による骨折が健康寿命を縮める大きなリスクとなる。専門家は健康寿命を縮め、生死に関わる脳卒中と並ぶ「骨卒中」を予防しようと呼び掛けている。

山陰労災病院の萩野浩院長提供
◇軽視しがちな骨折
がんについては多くの人が敏感だが、骨折の場合は「骨が折れただけで済んで、良かったね」と言われることも多いだろう。
日本骨粗鬆学会理事長で山陰労災病院の萩野浩院長は「とんでもない誤解だ」とした上で、「脳卒中が死亡に至る危険があることを知っている人は多い。しかし、骨折については軽く考えてしまうのではないか」と指摘する。萩野院長は脳卒中と同様の「骨卒中」という概念を提唱し、警鐘を鳴らしている。
◇要介護を招く原因
高齢者の骨折が起きやすい体の部位は、背骨や股関節、肩関節、手の関節などだ。厚生労働省の国民生活基礎調査(2019年)から、要介護となった主な原因を見るとこうなる。男性では脳卒中の25%がトップで、骨折・転倒は6%だ。ただ、骨折・転倒の割合は心疾患と変わらない。女性では認知症の20%に次ぎ、骨折・転倒が17%と男性より高くなっている。さらに問題なのは、骨折をした後で死亡のリスクが高まることだ。それはすべての骨折について当てはまるが、股の付け根と背骨の骨折の場合は死亡リスクが6.7倍から8.6倍に跳ね上がるという。
萩野院長によると、治療法は進歩を重ねている。「骨の吸収(骨の破壊)を抑制する骨吸収抑制薬の抗体製剤と骨の形成を促進する骨形成促進剤によって、薬物療法は一変した」と話す。
同学会は活動目標に骨粗鬆症検診の受診率向上を掲げている。現在4.5%の受診率を乳がん検診、子宮頸がん検診と同じ約15%まで引き上げることを目指す。さらに、一度骨折すると再び骨折するリスクが高まるため、2次性骨折の予防に向けて啓発活動を進める。

よしかた産婦人科の善方裕美院長提供
横浜市立大学産婦人科客員准教授でよしかた産婦人科の善方裕美院長は「エストロゲンという女性ホルモンが一つのキーワードになる。骨の健康と深い関わりがある」と話す。骨は、骨芽細胞による分化・増殖と破骨細胞による破壊という代謝を繰り返す。女性ホルモンは骨芽細胞の機能を促進するとともに、破骨細胞の機能を抑制することで「骨を守っている」と言う。
女性は20代で最大骨量を獲得するが、閉経後に急激に骨量が減少する。最大骨量をできるだけ長く維持し、急激な骨量減少を防ぐことがポイントになる。女性の更年期におけるホルモン補充療法は骨粗鬆症治療を兼ねる。
厚生労働省は「骨活」を勧めている。善方院長は「骨粗鬆症を予防するためには運動と食事だ」と強調する。食事ではまずカルシウムの摂取。1日に700ミリグラムが目安だ。加えてビタミンD、ビタミンK、たんぱく質を取ることが必要だ。運動ではウオーキングにとどまらずに骨に負荷を与える運動が良いという。
◇低体重は危険
骨粗鬆症のリスクを高める要因は加齢や女性ホルモンの低下、栄養や運動の不足、喫煙、アルコール摂取などだ。これらに加え、善方院長は「低体重はリスクの一つだ」と指摘する。なぜか。骨は荷重負荷で強くなるが、低体重では負荷があまりかからないからだ。
日光を浴びないとビタミンDの不足につながる。美白のために日光を避けるのは骨にとっては良くない。
女性には痩せたいという志向は強いが、善方院長は苦言を呈する。「過度なダイエットによって骨粗鬆症になると背骨が骨折しやすくなり、身長は縮み、背中が曲がった円背になってしまう。。立ち姿がきれいではなくなる」とし、「健康美」が大事と強調する。(鈴木豊)
(2025/03/14 05:00)
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