難病の炎症性腸疾患患者が訴え
~企業に理解・配慮求める~
潰瘍性大腸炎とクローン病は、どちらも炎症性腸疾患(IBD)で国の指定難病だ。原因が解明されておらず、根本的治療法がない。若い年齢で発症することが多い病気で、就学や就労、結婚など日常生活にも影響が出る。患者会は「病気についてまだ理解されていない。理解や合理的配慮の必要性を企業などにもっと周知していく必要がある」と訴える。

大阪IBD共同代表の三好和也さん
◇仕事や日常生活に影響
大阪IBD共同代表の三好和也さんは、40歳の時に潰瘍性大腸炎と診断された。病歴は10年を超える。きっかけは勤務する会社の人間ドックで出血が見られ、再検査となったことだった。三好さんはめっき資材関係のメーカーで働いており、当時は国内外への出張が多かった。診断後は海外出張を「NG」とし、国内での仕事に注力した。
ただ、体調を気にして食事を取らない生活が続き、体重は半年で10キロほど減少。診断から約1年後に精神的なストレスで2カ月休職した。復帰後はペースを抑えながら仕事をしたといい、「仕事内容は全部分かっていたので、良い意味でほったらかしにしてもらっていた。仕事はゆるりとやりながら、患者会や地域活動などで楽しく過ごせて、なんとかここまで維持できている」と話す。
◇頻繁に腹痛・下痢
ただ、社内では潰瘍性大腸炎の症状をなかなか理解してもらえず、トイレに行く頻度を指摘してくる同僚もいた。三好さんは「制度など働きやすい環境の向上に向け、社会全体でいろいろな取り組みをしてほしい」と訴える。
困りごとはトイレだ。この病気は下痢や腹痛が主な症状であるため、トイレに行く回数が増える。三好さんも電車の乗り継ぎではトイレに行く時間を確保することを心掛けている。
◇症状落ち着けば普通の暮らし
数カ月に1度開く患者同士の交流会には、子どもが潰瘍性大腸炎と診断された親も顔を見せる。「年代や性別を問わず患者会に来る。潰瘍性大腸炎と診断されて周囲にカミングアウトするべきかどうか悩む人もいる。そういう相談を先輩患者に相談するパターンが多い」(三好さん)という。
三好さんは「薬が効いて症状が落ち着けば、普通に生活や仕事ができ、家庭を持てるということを見てもらうのも患者会の一つの役割と思っている」と話す。杏林大学医学部消化器内科学の久松理一教授も「難病に指定されているが、症状がコントロールできれば病気になる前の生活が可能になる。病気のない人と同じような人生のチャレンジができる」と強調する。

杏林大学の久松理一教授
◇発症には多因子が関与
潰瘍性大腸炎はこれまでのデータから、遺伝的素因に加えて食生活や衛生環境などの環境因子の関与により腸管の免疫システムが過剰に活性化し、発症に至ると考えられている。久松教授は「腸管の免疫システムは病原性細菌などの異物に対して防御的に働く一方で、それを抑えるブレーキの役割もすることで常にバランスを取っている」と説明。その上で「アクセルを踏みっ放しのような状況になると、慢性的に炎症が起こって炎症性疾患になると考えられている」と語る。
◇今年3月に新薬承認
そんな中、尋常性乾癬(かんせん)などの治療に使われる「グセルクマブ」が3月、既存治療で効果が不十分な中等症以上の潰瘍性大腸炎に対する療法として製造販売承認を得た。炎症性腸疾患の原因となる炎症性サイトカイン(タンパク質)の作用を阻害する仕組みで、臨床試験では治療開始から44週時点で血便や下痢、腹痛などの自覚症状をほとんど感じない状態になった患者の割合は100ミリグラムを8週ごとに投与した場合で45.2%、200ミリグラムを4週ごとに投与した場合は50.0%となった。さらに、それぞれ34.6%と33.7%が内視鏡検査で大腸の粘膜が正常に近い状態に戻ったことが分かった。久松教授は「組織レベルまで効いていることを示している」との見方を明らかにする。
三好さんは、潰瘍性大腸炎の治療でこれまでに10種類ほどの薬を処方された。薬疹などの副作用が出て服用を中止した薬もあり、「適切な治療に出合って充実した生活が送れることが大事だ。新たな薬もいろいろ出ているが、われわれが安定して生活できるようにしてほしい」と話していた。(江川剛正)
(2025/06/23 05:00)
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