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「喪失」 鏑木 蓮

 「東京ダモイ」で第52回江戸川乱歩賞(2006年)を受賞した鏑木蓮の「喪失」が文庫化されました。鏑木蓮の作品は、推理小説でありながら心理を深く探る視点が秀逸であり、マスコミを含めほとんどの人が見逃してしまいがちな社会問題を織り交ぜて描かれていることが特徴ですが、今回の作品も事件に隠された心理が思いがけない展開へとつながっています。

 主人公は、鏑木蓮作品ではおなじみの京都府警・捜査1課の大橋砂生。大橋が手掛けるのは、不動産業を営む有名資産家・真鍋征矢の妻、文香の転落死事件です。遺体の第1発見者は、真鍋夫妻の離婚調停で文香側の弁護士、和光忠之でした。文香が生前、夫からDVを受けていると発言していたことや、彼女が夫のブレスレットを握りしめて死んでいたため、征矢は任意同行を求められますが彼は完全否認。一方、和光が文香のDVの訴えは精神的に不安定な彼女の妄想だと発言するなど、決定的な証拠を見つけることが難しいまま、事件にはさらに人々の心理的葛藤が複雑に絡み合い、真相が覆い隠されていってしまいます。

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