医学部トップインタビュー
在宅医療で新たな取り組み
挑戦続ける愛知医科大学
15年5月には、リボ核酸(RNA)の一種であるマーナ(mRNA)を活用したがん関連遺伝子リスク診断および長寿遺伝子(Sirt1)の活性化診断を実施する「マーナ(mRNA)健康外来」を全国の大学病院で初めて開設した。佐藤学長は予防医学を推進する観点から、「データを集積することにより、生活習慣を変えればどれだけ病気のリスクが減るかというデータも取れてくる」と期待を示す。患者に対し具体的な数値を挙げ、生活習慣の改善を促せるからだ。
健康外来を担う「先制・統合医療包括センター」創設に力を入れたのは、三宅養三理事長だ。脳卒中などあらゆる脳血管障害に対応する「脳血管内治療センター」、南海トラフ地震など大規模災害に備えた「災害医療研究センター」も「先進的な試みに意欲的な三宅理事長がリードした」と言う。
◇女性が働きやすい環境づくり
愛知医科大学の医学部は女子学生の比率が約43%に上る。大学として男女共同参画への取り組みにも力を注いでいる。女性が働きやすい環境づくりとして大学内に保育所を設置。定員は50人で、女性医師や看護職員、事務職員らが利用しており、申請があれば夜間保育にも対応する。また、臨床系女性教員を対象に特別短時間勤務制度を導入。1週間に24時間勤務することを条件に勤務日数を選択することが可能で、女性医師の利用率も向上している。
◇大工に憧れ、整形外科に
佐藤学長自身はどうして医学の道を志したのだろうか。父は会社員で、奈良の自宅から大阪の職場に通うため、毎朝7時前に家を出ていた。その姿を見て「サラリーマンは嫌だ。やるなら、自由業だと思った」という。一方、大工に憧れ、家の改修のためにやって来た大工の仕事を一日中ながめていてもあきることはなかった。「手を使うことが大好きで、金づちでくぎを打ったり、のこぎりやのみを使ったりした」。医学部に入り、学生時代は産婦人科や小児科の英文教科書も熱心に読んだ。結局、整形外科医になることを決め、母に報告したところ、「あなたはやはり、大工になったのね」と言われた。学長の答えはユーモラスだ。
佐藤学長の現在の生活は毎日午前6時半には出勤し、朝食を取りながらメールをチェックする。7時から正午までの5時間、昼食をはさみ午後1時から6時までの5時間を有効に使えるからだ。現役時代も立ち上がりは早かった。「自由業どころか、サラリーマンそのものだね」と笑いながら話す。
◇「支えられ、生かされる」
医療人を目指す学生たちへのメッセージを聞くと、名古屋大学整形外科学講座の先輩であり、心身障害者の総合福祉センターである「愛知県心身障害者コロニー」の村地俊二氏の「人を支えて生かしなさい」という言葉を紹介してくれた。「村地氏の教えを実践しようとすると、気付くことがある。『自分が支えられ、生かされてきた』と。それを実感することが何よりも大事だ」(時事通信社・鈴木豊)
【愛知医科大学の概要】
1972年、医学部の単科大学として創設。80年に医学研究科、2000年に看護学部、04年に看護学研究科を開設し、2学部・2研究科体制に。同大学病院は特定機能病院で、県内唯一の高度救命救急センターとドクターヘリを持つ。「学是」は「具眼考究」で、江戸時代中期の画家、伊藤若冲の言葉から採った。
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(2018/10/24 06:00)