教えて!けいゆう先生

SNSでの健康相談、医師が答えにくいと感じる理由 外科医・山本 健人

 ツイッターなどのSNSでは、多くの医師が一般向けに医療情報を発信しています。

 私自身も9万人以上にフォローしていただき、さまざまな情報を提供しています。

 実は、こうした活動をしていると、私たちの元には日々、SNSのメッセージでたくさんの健康相談が送られてきます。

 中でも多いのが、「昨日から〇〇の症状がある。どうすればいいか」といった症状に関する相談です。

SNSでは非常に多くの健康相談が送られてくるのですが…【時事通信社】

 もちろん、専門家として頼りにしていただけるのは、大変ありがたいことです。しかし、その数があまりに多いため、これら一つ一つに答えることは到底できません。

 また、こうした相談に答えにくい、と感じる理由は他にもあります。

 ◇診察なしに助言する怖さ

 医師であれば誰もが、「ありふれた症状の背後に思いもよらぬ重い病気が隠れていた」という経験を何度もしています。

 歯の痛みで病院に来た人が心筋梗塞だった。

 便秘の薬を求めて受診した人が大腸がんだった。

 そんな場面には、何度も出くわすのです。

 診察や検査を行うことなく、SNSで何らかの助言をするのが恐ろしいと感じるのは、こうした経験があるからです。

 あいまいな助言が、かえって相手の健康を傷つけるかもしれない。そう思うと、「医師の診察を受けてください」以外の答えは、できなくなってしまうのです。

 ◇避けたい不平等

 SNSで健康相談に答えることは、患者さんたちの間での不平等につながるのではないか、という懸念もあります。

 「SNSで医師に思い切って質問できる人」は得をする一方、「こんなふうに気軽に相談してはいけないのではないか」と遠慮する人が損をする構図をつくってしまうからです。

 内気で遠慮がちな人は、診察室で医師と対面している時ですら、「こんなことを聞いてもいいのだろうか」と逡巡(しゅんじゅん)するものです。

 SNSではユーザー同士の距離感が近いからこそ、むしろ、なるべく不平等が起こらないようにしたい、と思うのです。

 ◇専門家としての信頼性

 健康相談に無償で答えていると、専門家としての信頼性を毀損(きそん)するのではないかと感じることもあります。これは私だけでなく、医師全体の信頼性について言えることです。

 こんな小話があります。

 画家のピカソに、見知らぬ女性が絵を描いてくれるよう頼んだところ、ピカソは30秒で小さな絵を描き、「絵の価格は100万ドルです」と伝えます。

 驚いた女性が、「30秒しかかかっていないのに」と反駁(はんばく)すると、ピカソはこう答えます。

 「30年と30秒です」

 この小話、真偽のほどは明らかではありませんが、伝えたいメッセージは明確です。

 専門家の仕事は、それ自体が簡単にできるように思われても、背景には何年、何十年もの努力と訓練の積み重ねがあります。

 医療の世界でも、そうした積み重ねの中で、健全で安定的なサービスが維持され、多くの人が安心して、その専門性に信頼を置くことができるのだと思います。

 健康相談に対し、SNSを通した相談ではなく、正規のルートで受診していただきたい、と考える理由は、そうしたところにもあるのです。

 一方、情報発信を行う医師たちは、受けた相談から、一般によくある疑問を抽出することができます。これを、連載メディアで記事にしたり、SNS等で発信したりすることはできます。

 個別に助言するのではなく、いただいた疑問を一般化し、広く解決を目指す手段を工夫するのも、専門家の役割なのだと思っています。

(了)


 山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医、ICD(感染管理医師)など。Yahoo!ニュース個人オーサー。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設3年で1000万PV超。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書に「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険」(ダイヤモンド社)など多数。


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