2024/11/06 05:00
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ツイッターなどのSNSでは、多くの医師が一般向けに医療情報を発信しています。
私自身も9万人以上にフォローしていただき、さまざまな情報を提供しています。
実は、こうした活動をしていると、私たちの元には日々、SNSのメッセージでたくさんの健康相談が送られてきます。
中でも多いのが、「昨日から〇〇の症状がある。どうすればいいか」といった症状に関する相談です。
SNSでは非常に多くの健康相談が送られてくるのですが…【時事通信社】
もちろん、専門家として頼りにしていただけるのは、大変ありがたいことです。しかし、その数があまりに多いため、これら一つ一つに答えることは到底できません。
また、こうした相談に答えにくい、と感じる理由は他にもあります。
◇診察なしに助言する怖さ
医師であれば誰もが、「ありふれた症状の背後に思いもよらぬ重い病気が隠れていた」という経験を何度もしています。
歯の痛みで病院に来た人が心筋梗塞だった。
そんな場面には、何度も出くわすのです。
診察や検査を行うことなく、SNSで何らかの助言をするのが恐ろしいと感じるのは、こうした経験があるからです。
あいまいな助言が、かえって相手の健康を傷つけるかもしれない。そう思うと、「医師の診察を受けてください」以外の答えは、できなくなってしまうのです。
◇避けたい不平等
SNSで健康相談に答えることは、患者さんたちの間での不平等につながるのではないか、という懸念もあります。
「SNSで医師に思い切って質問できる人」は得をする一方、「こんなふうに気軽に相談してはいけないのではないか」と遠慮する人が損をする構図をつくってしまうからです。
内気で遠慮がちな人は、診察室で医師と対面している時ですら、「こんなことを聞いてもいいのだろうか」と逡巡(しゅんじゅん)するものです。
SNSではユーザー同士の距離感が近いからこそ、むしろ、なるべく不平等が起こらないようにしたい、と思うのです。
◇専門家としての信頼性
健康相談に無償で答えていると、専門家としての信頼性を毀損(きそん)するのではないかと感じることもあります。これは私だけでなく、医師全体の信頼性について言えることです。
こんな小話があります。
画家のピカソに、見知らぬ女性が絵を描いてくれるよう頼んだところ、ピカソは30秒で小さな絵を描き、「絵の価格は100万ドルです」と伝えます。
驚いた女性が、「30秒しかかかっていないのに」と反駁(はんばく)すると、ピカソはこう答えます。
「30年と30秒です」
この小話、真偽のほどは明らかではありませんが、伝えたいメッセージは明確です。
専門家の仕事は、それ自体が簡単にできるように思われても、背景には何年、何十年もの努力と訓練の積み重ねがあります。
医療の世界でも、そうした積み重ねの中で、健全で安定的なサービスが維持され、多くの人が安心して、その専門性に信頼を置くことができるのだと思います。
健康相談に対し、SNSを通した相談ではなく、正規のルートで受診していただきたい、と考える理由は、そうしたところにもあるのです。
一方、情報発信を行う医師たちは、受けた相談から、一般によくある疑問を抽出することができます。これを、連載メディアで記事にしたり、SNS等で発信したりすることはできます。個別に助言するのではなく、いただいた疑問を一般化し、広く解決を目指す手段を工夫するのも、専門家の役割なのだと思っています。
(2022/03/02 05:00)
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