治療・予防

お酢のもと「酢酸菌」の知られざる力
~免疫の働きサポートで花粉症、風邪症状に効果も~

 健康にいいと言われるお酢。生活習慣病の予防や便秘改善、疲労感の軽減や殺菌・防腐効果があるなど、さまざまな働きに着目した食品や飲料が市販されている。さらに、お酢の成分「酢酸」を作る「酢酸菌」には、体内の免疫細胞を活性化し、花粉症などのアレルギー症状や風邪症状を抑えるといった有効性があることも分かってきた。詳しい医師や企業の研究員に話を聞いた。

マヨネーズの原料である酢の製造工程で発生する酢酸菌に注目

マヨネーズの原料である酢の製造工程で発生する酢酸菌に注目

 ◇酢酸菌に注目

 一般的に知られている「お酢の万能性」は、主成分である酢酸の働きだ。血圧上昇の抑制、血糖値・コレステロール値の低減、内臓脂肪の燃焼促進は、生活習慣病に効果があると言われてきた。

 大腸の蠕動(ぜんどう)運動を促す働きは、便秘の改善に役立つ。また、体を動かすためのエネルギーを作り出すシステムにも関係していて、疲れにくい体作りをサポートする。腸で吸収されにくい鉄やカルシウムに作用し、吸収を助ける物質に変えたり、高い防腐・殺菌性で食材の保存を担ったり。お酢はまさに、調味料界の〝千両役者〟と言えそうだ。

 ここ数年、新たな効果が加わった。「アルコールを取り込み、酢酸を作り出す酢酸菌に注目し研究したところ、免疫細胞を活性化させることが分かった」と話すのは、食品メーカー、キユーピーの奥山洋平さん(免疫・認知プロジェクト次長)だ。

 マヨネーズの原料である酢の製造工程で発生する「にごり酢」に酢酸と酢酸菌が含まれており、このうち、酢酸菌の働きは未知数だった。腸内細菌の一つである乳酸菌と比較するため、抗原に対する反応を分析したところ、酢酸菌の方が約5倍高かった。「これは突き詰めないといけないと思った」(奥山さん)。

 ◇免疫細胞に働き掛け

 詳しく調べると、免疫細胞を活性化させる細菌としてなじみのある納豆菌や乳酸菌、ビフィズス菌のメカニズムと、ほぼ同様の仕組みを持っていた。その上、乳酸菌などとは異なり、本来は外敵の細菌が持つような、ウイルスなどを感知・探索するためのスイッチに働き掛けることが判明した。

 半世紀以上前の日本の衛生環境では、人々は多様な細菌と接する機会が多かったとみられる。現代に近づくにつれ上下水道などが改善された上、さまざまな感染症対策として除菌の考え方が進んだ結果、酢酸菌はもちろん、免疫機能を持つ細菌との接触も低下。奥山さんは「免疫細胞にはさまざまなスイッチがあるが、酢酸菌による『スイッチオン』が減少したことで、花粉症などのアレルギー疾患の発症が低年齢化してきた可能性がある」とみる。

「にごり酢を生活に上手に取り入れて、健康な体作りのきっかけにしてほしい」と石原医師

「にごり酢を生活に上手に取り入れて、健康な体作りのきっかけにしてほしい」と石原医師

 臨床試験では①花粉飛散に伴う鼻づまりなどの症状を抑制する➁風邪様症状の発症率を低下させる➂ストレスを軽減する―ことが明らかになった。イシハラクリニック副院長で内科専門の石原新菜医師も「酢酸菌は、さまざまな免疫細胞をバランスよく活性化させる力を持つ。これからもっと注目されるべきだ」と話す。

 「さらに研究し、他の菌が持つ有効性はもちろん、それ以上の働きも見つけたい」と意気込む奥山さん。アレルギー性皮膚炎に対する効果が試験中である他、ワクチンと一緒に投与して効果を高める「ワクチンアジュバント」として使えるかに期待しているという。「ごく少量で効果を発揮するため、輸送にも便利。医療面の貢献は大きいはず」と力を込める。

ろ過されたお酢(左)とにごり酢

ろ過されたお酢(左)とにごり酢

 ◇酢酸菌を食べて健康な体作り

 具体的にどんな方法で取り入れるか。同社が発売しているサプリメントには、花粉による不快症状に効果があるとされる必須量・1日400億個の酢酸菌が配合されていて手軽に摂取できる。

 石原医師は「にごり酢」を推す。身近で手に入るお酢は、ろ過されにごりが除去されている。この部分に酢酸菌が豊富に含まれているため「最近は健康志向も相まって、あえてにごったままのにごり酢を販売する老舗のお酢の蔵元も」(石原医師)。

 使い方は好みでいいという。石原医師は「水や炭酸水で割って飲み物に。納豆にかけたり、サラダにドレッシングとして混ぜたりもお薦めだ」とアドバイスする。摂取目安は1日大さじ3杯(約45ミリリットル)ほど。同量の酢酸菌を取るために、一般的なお酢に換算すると何百リットルにもなることから、いかににごり酢に同菌が凝縮されているかが分かる。ただ、取り過ぎると歯のエナメルを溶かしたり、消化器官を傷つけたりするので注意が必要だ。

奥山さんは「酢酸菌の細胞膜を構成する成分は、自然免疫を増強する働きを持つ。医療の世界で応用できるはず」と語る

奥山さんは「酢酸菌の細胞膜を構成する成分は、自然免疫を増強する働きを持つ。医療の世界で応用できるはず」と語る

 「現代人の持つさまざまな健康上の悩みに効果があるにごり酢。健康に意識が高い人も、不規則な生活を送っていてどうにかしたいと思っている人も、試してほしい」と石原医師。奥山さんも「フランスのワイナリーでは、ワインビネガーも作っていて、お酢を食事で取る習慣がある。酢酸菌は体にいいという考えを一般化して、酢酸菌を食べる文化を世界中に広めていきたい」と語った。(柴崎裕加)


【関連記事】


新着トピックス