怖い女性の心房細動
~更年期症状と誤解も~
心房細動は不整脈の一つで、心房がけいれんするように細かく震える。これにより、脳梗塞のリスクが高まるとされている。女性の場合は動悸(どうき)や息切れなど心房細動と更年期の症状を混同し、放置することが多い。杏林大学医学部の副島京子教授(循環器内科)は「早く気付いて早く対処すれば、脳梗塞を予防できる」と強調する。
心房細動に伴う症状
◇約半数が自覚症状なし
心筋を動かすために電気信号による刺激を生み出している心臓の部分を「洞結節」と呼ぶ。心臓のリズムを刻む器官と言ってもよい。健常者であれば、1分間に60~100回と正しくリズムを刻んでいる。
ところが、不整脈になると、100回以上になったり(頻脈)、60回以下(除脈)になったりする。また、脈が飛んだりすることもある。
心房細動の症状は、息切れやめまい、疲労感、動悸、頻尿など多様だ。これに気付いて受診すればよいが、怖いことがある。副島教授は「約半数の人には自覚症状がない」と指摘する。
副島京子・杏林大学医学部教授
◇脳卒中リスクが5倍
心房細動になる人は、超高齢化社会の到来とともに増加している。副島教授は「2019年のデータによると、心房細動の患者は約100万人に上る。有病率は70歳以上の男性で3~4%、女性では2%となっている」と言う。
心房細動がもたらすリスクについて副島は次のように説明する。脳卒中リスクは5倍に、死亡率が2倍になる。問題なのは、心房細動の症状が脳卒中と関係があると意識しないことだ。
◇2人に1人が放置
オムロンが行ったアンケート調査によると、20~60代の女性の約8割以上が日常生活で動悸や息切れを感じている一方、2人に1人が放置している。何もしていない理由としては、「病院に行くほどの症状ではない」や「時間がなく面倒だから」が多い。45~66歳では「更年期だから」という回答が目立つ。副島教授は「動悸や息切れ、胸部の不快感など、女性の更年期症状と心房細動の症状とは似ている」と注意喚起する。
◇家庭で心電図測定
心房細動の正しい診断には心電図の記録が欠かせないが、難しい点がある。「心房細動には持続性のものと発作性のものがある。発作性の場合はタイムリーに心電図を記録するのは困難だ」と言う。
そこで家庭で心電図を日常的に測ることが、早期発見につながる。自宅で手軽に心電図を記録しながら、血圧も測れる機器も登場している。副島教授は「今後はスマートウオッチなどの活用に期待したい」と話す。
82歳の女性は動悸の症状があったが、健診では心房細動とは分からなかった。スマホと連動したスマートウオッチを使いこなし、心電図の記録を取った。それを携えて受診し、心房細動だと診断されたという。
副島教授は「早く発見し、きちんと治療すれば、心房細動がない人と変わらない生活を送ることができる」と言う。
82歳の女性の診断に役立ったアップルウオッチの記録
◇「最後の砦」の治療法
薬にはメリットとデメリットがあり、あくまでも予防にとどまるとされる。薬剤が効かないと、生活の質(QOL)が悪化する。「最後のとりで」となるのが、カテーテルを心臓の中に入れ、不整脈の原因となる部分を焼き切るアブレーションだ。これを嫌がる患者もいるが、副島教授は「最近は安全性が高まり、有効な治療法となっている」と指摘する。
カフェインの取り過ぎは心房細動のリスクを高める。米国では1日にエナジードリンクを5杯飲んだところ、心房細動の症状が起きたケースが報告されている。副島はカフェインについて「1日にコーヒー2杯分程度なら問題はないが、過剰な摂取は良くない」と話す。(鈴木豊)
(2024/05/01 05:00)
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