こちら診察室 進歩する人工関節

「自由に動けて」意味を持つ
~欠かせない継続的リハビリ―人工関節~ 第4回

 これまでお話ししたように、人工関節手術は広く普及し、生活の質(QOL)の向上に貢献しています。ただ、手術単独では関節の痛みを取り除けても、歩行などの日常生活機能を完全に回復することはできません。手術後はもちろん、手術前から開始する筋力トレーニングなどのリハビリテーションが不可欠だからです。リハビリというと、「手術後に病院で受けるもの」と考える方が多いようですが、実際は入院前や退院後の自宅でも行うことができ、この期間のリハビリが特に重要になります。

あおむけで片方の膝を立て、反対側のすねを膝の高さまで引き上げて5秒間保持=東京医科大学病院提供

あおむけで片方の膝を立て、反対側のすねを膝の高さまで引き上げて5秒間保持=東京医科大学病院提供

 ◇手術3カ月前から実施

 手術前のリハビリについて、これまでも紹介してきました。横になっての足上げやもも上げ、スクワットなどの「温存療法」の延長線上で、手術に向けて筋力強化を進めていきます。回数を徐々に増やし、負荷も上げていきます。これは手術前の筋力強化だけでなく、手術後のリハビリのイメージトレーニングにも役立ちます。しっかりと方法を身に付けてください。

 手術はある程度身体に負担がかかるので、手術後は車椅子での移動や歩行器を使っての歩行練習などから体力回復を図ります。以前は安静期間を長く取っていましたが、近年では、手術当日あるいは翌日からリハビリを開始するのが一般的です。

 ◇手術後、2~3週間のリハビリ

 手術後は、体力の回復、筋力の向上とともに、トイレや入浴などの日常生活動作における注意点の確認という三つの柱から成るプログラムに基づいて、理学療法士(PT)の指導や協力を受けながら、退院まで通常2~3週間程度リハビリを行います。リハビリ内容は手術前のプログラムの他に、新たにエアロバイクなどの自転車型運動器具を用いた体力・筋力向上のトレーニングや、院内外での散歩などの歩行機能向上のトレーニングが加わります。

 筋力が弱くなっている場合は、退院後すぐに自宅や施設へ戻らず、リハビリ専門病院などに転院して、さらにリハビリを継続することもあります。

足の土踏まずにタオルを掛けて伸ばすことで筋力強化に=東京医科大学病院提供

足の土踏まずにタオルを掛けて伸ばすことで筋力強化に=東京医科大学病院提供

 ◇退院後が勝負に

 退院後も、自宅で自主的に足上げ運動やもも上げ運動、散歩やウオーキングなどを積極的に続けてもらうように指導しています。筋力や体力を短期間で向上させるには、厳しいトレーニングが必要となりますが、リハビリ中の患者さんには過度な負担となってしまう可能性があります。そのため、時間をかけて段階的に運動強度を上げていくことが重要です。そして、手術後の定期診察で医師やPTが運動の効果を確認していくことになります。
 私たちの東京医科大学病院では、退院した患者さんに歩数計を渡し、毎日の歩行量を記録してもらっています。定期診察の度に記録を確認し、患者さんのモチベーション向上やリハビリ継続のサポートを行っております。手術後5年以上、記録を継続されている患者さんも多くいらっしゃいます。

 ◇筋力と体力の保持

 摩耗などの問題がある程度解決されたことで、人工関節の寿命は確かに延びています。しかし、人工関節に問題がなく置換手術を受けたにもかかわらず、歩く能力が改善しなければ手術を受けた意義が半減してしまいます。せっかく痛みがなくなったのですから、元気に楽しく日常生活を送っていただきたいと思います。そのためには、筋力と歩行能力の維持が欠かせません。(了)


 山本謙吾(やまもと・けんご) 東京医科大学病院整形外科主任教授、同大学病院院長。日本専門医機構認定整形外科専門医、日本整形外科学会脊椎脊髄病医、日本整形外科学会認定運動器リハビリテーション医、日本人工関節学会認定医。1983年東京医科大学卒業、98~99年米ロマリンダ大学留学、2004年東京医科大学整形外科学教室主任教授、10年東京医科大学病院リハビリテーションセンター部長兼任。





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