一流に学ぶ 難手術に挑む「匠の手」―上山博康氏

(第14回)若手医師、札幌に集結=「匠の技」伝える

 ◇手術前後のイラスト

 スクリーンには次々と症例のプロフィル、検査所見が映し出される。手術前に脳の血管状態を検査所見から予測して描いた絵が現れた。すると上山氏は「どうしてこんな絵になるの? こう認識するということは、解剖上の無知を露呈してしまっているでしょう」とすかさずくぎを刺す。手術前後にイラストを描くのは、同氏独自の方法だ。

 「手術前に頭の中にあるイメージを具体化することはとても重要。実際に手術で見たものを踏まえ、術後に絵を修正して描くと、自分の予想とどこが違ったのかが一目で分かるようになります」

 上山氏自身、このイラスト描きを欠かさず行っている。どんなに疲れても、記憶が鮮明なその日のうちに術後のイラストを描くことを自らに課している。

 「僕がいつまでも手術するわけにはいかない。世代交代に向け、できるだけ多く、自分の経験を効率よく伝えたい」。カンファレンスが終わると、すぐに午前中の手術が始まる。

 上山氏が自ら執刀するのは3回に1回程度。所長室の中にはモニターが設置され、手術の様子が常に見られるようになっている。双方向の会話もできる。気になる様子があれば声を掛け、必要ならすぐ手術室に向かう。関係ない話題で盛り上がっていても、常にモニターが視野に入っているらしく、「ちょっと行ってくる」と言っては手術室に向かう。ここで行われるすべての手術を把握する。

 「僕は伊藤先生というジャンプ台から飛び出したおかげで、はるかに高い位置から跳ぶことができた。だから長距離を跳べるんです。僕は、伊藤先生の先の上山博康というジャンプ台をできるだけ高い位置に設定し、若い先生たちを跳ばしたい」(ジャーナリスト・中山あゆみ)

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