「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

第8波は制御可能か
~3回目の「冬の流行」から予測~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第53回】

 2022年11月に入り、全国的に新型コロナウイルスの感染者数が再増加しています。第8波が始まったとされていますが、オミクロン株の新たな亜型の流入で、感染者はさらに増加することが予想されます。こうした「冬の流行」を私たちは過去2シーズン経験しており、次第に年中行事のようになってきました。そこで今回は、3回目の「冬の流行」という観点から第8波を予測してみます。

米ニューヨークの感謝祭パレード(2018年11月22日)=EPA時事

米ニューヨークの感謝祭パレード(2018年11月22日)=EPA時事

 ◇日本が再び世界第1位に

 WHOが11月9日に発表した週報では、日本が過去1週間の新規感染者数で再び世界第1位にランクされました。この原因は第7波の大流行が完全に収束しないまま、11月に再燃したことにあるでしょう。この時期の感染者増加は日本だけでなく、韓国やモンゴルなどでも起きており、世界的な視点で見ると、今まで感染者の少なかった東アジア全体で流行が再燃していると捉えることもできます。

 日本国内では、11月から起きている感染者の増加を第8波の流行とする見方が強くなっていますが、ウイルスの種類からすると、第7波の主流だったオミクロン株のBA.5型が再燃している状況で、このまま感染者が急増する可能性は低いように思います。本格的な第8波は、今後、オミクロン株の新たな亜型が拡大したときに起こるのではないでしょうか。

 ◇高まるBQ.1型の脅威

 オミクロン株の新たな亜型としては、シンガポールで10月に急増したXBB型が注目されていましたが、その拡大は11月になり抑えられています。

 これに代わって、現在、最も注目されているのがBQ.1型です。この亜型は欧米諸国を中心に拡大しており、米国では11月初旬までに検出されるウイルスの35%をBQ.1型が占めています。BQ.1型はBA.5型の子孫に当たるため、その感染力や重症度は今までとあまり変わりませんが、過去の感染やワクチン接種などで獲得した免疫から逃避する力が強くなっているようです。

 現在、欧米ではBQ.1型の感染者数そのものが増加している状況にはありませんが、今後、冬の到来とともに、その占める割合はさらに増加し、感染者数も急増していく可能性があります。こうして欧米諸国などで発生した流行が日本にも波及し、本格的な第8波の流行として拡大していくことになるでしょう。

 ◇注目される二つのイベント

 それでは、BQ.1型などの新しい亜型がいつ世界的に拡大するかですが、私は二つのイベントに注目しています。

 一つは米国の感謝祭(Thanksgiving Day)で、今年は11月24日に行われます。米国では多くの家族が集まり、食事会をするわけですが、その前後の期間に人の移動が活発になります。そして過去2年を見ると、米国ではこの感謝祭以降に新型コロナの感染者数が急増しているのです。今年もこの時期にBQ.1型が拡大する可能性は大きいと考えます。

 もう一つは、11月20日に中東のカタールで開幕するサッカーのワールドカップ大会です。12月18日までの開催期間中、世界中から120万人の人々がカタールを訪れると予想されており、同国はかなり密な状態になります。

 21年の東京オリンピック・パラリンピック大会や22年の北京オリンピック・パラリンピック大会が、新型コロナ対策のため厳重な監視下で行われたのと違って、カタールでの大会では、観客のコロナ検査やマスク着用といった規制がほとんどありません。カタール政府は新型コロナの感染者数が減少していることや、ワクチン接種が進んでいることを規制緩和の理由に挙げています。しかし、この大会にBQ.1型の感染者が参加すれば、周囲の人々にまん延させるだけでなく、そこを起点に世界各地に流行が拡大する可能性は十分にあると思います。

W杯サッカー開幕を控え、盛り上がる人たち=2022年11月11日カタール・ドーハ

W杯サッカー開幕を控え、盛り上がる人たち=2022年11月11日カタール・ドーハ

 ◇過去2シーズンと違う点

 このように、今後、第8波の感染者数が、BQ.1型などの拡大で増加することは確かですが、これを今冬の流行という観点で予測し対処することが必要です。それと言うのも、新型コロナは呼吸器感染ウイルスであり、冬が本格的な流行シーズンになるからです。これから先は何年にもわたり、新型コロナの「冬の流行」が繰り返されると考えます。

 ここで参考になるのが、過去2シーズンの「冬の流行」です。20年から21年の冬は、日本で第3波の流行が拡大しました。この時は最初の武漢株が冬の時期に流行したもので、まだワクチンもなく、緊急事態宣言などの行動制限で流行をしのいできました。21年から22年の冬は第6波の流行でした。ワクチン接種は既に行われていましたが、感染力の強いオミクロン株が発生したため、ワクチンに行動制限を併用して対応しました。

 これに比べると、今冬は今までのオミクロン株の流行であり、BQ.1型だとしても、免疫回避はあるものの、感染力が以前よりも強くなってはいないようです。さらに、オミクロン株を対象にした新しいワクチンの接種も始まっています。このように過去2シーズンと比べると、今冬の新型コロナの流行はウイルスの感染力はあまり変わらず、ワクチンも流行中のウイルスを対象にしたものが準備されている状況になります。

 ◇今シーズンの流行は制御可能か

 こうしたことから、今冬の新型コロナの流行は、行動制限など社会経済に大きな影響を及ぼす措置を用いることなく制御できると考えます。ただし、多くの国民の皆さんが、オミクロン株ワクチンの接種を受け、マスク着用など一般的な予防対策を実施していれば、という条件が付きます。

 一つだけ懸念すべき点はインフルエンザとの同時流行です。米国や西ヨーロッパでは既に今冬の流行が少しずつ始まっており、日本でも今冬はインフルエンザが流行すると考えておいた方がいいでしょう。政府は新型コロナインフルエンザの同時流行に備えた診療体制を発表していますが、まずはインフルエンザワクチンの接種を受けて、感染しないようにすることが大切です。また、日本ではマスクをしている人が多いので、インフルエンザの流行があまり拡大しないのではないかという見解もあります。

 第8波の流行はこれからが本格的なものになりますが、過去2シーズンの「冬の流行」と比較すると、準備次第で制御可能な流行になると思います。新型コロナの「冬の流行」は、これから何年も続くと予想されることから、今回の第8波への対応は、今後のための貴重な経験になるはずです。(了)


濱田 篤郎 特任教授

濱田 篤郎 特任教授

 濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏

 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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