Dr.純子のメディカルサロン

新型コロナ後遺症とメンタルヘルス

 新型コロナウイルス感染症の後遺症に関する相談が増えてきました。私はコロナ後遺症外来の診療をしておらず、統計を取っているわけではありません。しかし、産業医として休職の面談やコンサルタントをしている企業で体調不良の相談を受けていると、後遺症により業務に支障を来している人が確実に増えていると実感します。また、後遺症で悩む人は心の活気が低下し、気持ちがうつ傾向に陥る場合も少なくありません。対策について考えてみたいと思います。

(文 海原純子)

コロナ下で通勤する人たち

コロナ下で通勤する人たち

 ◇人に理解されないつらさ

 世界保健機関(WHO)は、同後遺症を「新型コロナウイルスに罹患(りかん)した人に見られ、少なくとも2カ月以上持続し、また、他の疾患による症状として説明がつかないもの」と定義。年齢や重症度にかかわらず、すべての人に起きる可能性があるとされています。

 症状はよく知られている味覚障害や嗅覚障害だけでなく、倦怠(けんたい)感や発熱せき頭痛、関節痛、うつ気分、筋力低下、集中力低下、息切れ記憶障害睡眠障害、腹痛、下痢などさまざまです。他人が見ても分かりにくいため、周りから「サボっているのでは」と思われるのをしばしばつらく感じるといいます。詳細は厚生労働省のホームページを参照してください。相談窓口は各自治体が設けていますので、「新型コロナ感染症相談窓口」で検索すると後遺症対応外来などが掲載されています。

 症状に波、先行き不安に

 これらの症状には特徴があります。一度回復したと感じ、「さあ、仕事に復帰できるか」と思った翌日にまた体調が悪くなるというように、波があることが多いのです。そのせいで職場復帰の見通しが立たず、先行きが不安になったり自分の体調に自信がなくなったりすることがしばしばあります。職場でも、上司や人事はどのように復帰を進めればいいのか悩みます。

 実際の相談例を二つ紹介します。1人目はメーカー勤務の30代男性です。今年1月に新型コロナに感染し、発熱と、のどの痛みが数日続きました。熱も下がり自宅待機期間を終えて出社しようとした頃から、だるさと眠気で身体に力が入らなくなり休職を延長。回復後に復職したものの、繰り返し微熱が出るなどで体力に自信がなくなり、気持ちが落ち込むという状況に陥りました。現在も面談を継続しています。

 2人目は今年7月に感染した制作会社勤務の30代女性。症状は軽いものの、その後も後鼻漏(こうびろう)とせき払い、微熱が続いています。頭痛もあり、集中力が低下して昼間に眠くなるなどの症状が改善しない状態です。調子が良く大丈夫だと思った翌日に、動けなくなるほどの脱力感に襲われて現場の業務ができなくなるので、会社から「当てにできなくて困る」と言われました。自分ではどうすることもできずに悩んでいます。

 ◇五つの対策

 後遺症対策として次の五つが大切と考えます。

 1.症状への正しい認識
 ある日は良くても翌日に体調が悪化するという状態は周りから理解されにくいものです。「サボっている」「復帰する意欲がない」などと思われることも多く、職場の同僚や担当者とのコミュニケーションギャップにつながる場合があります。理解されないつらさで孤独感が生まれ、気持ちがうつ状態になるケースもあります。そうした事態を避けるため、後遺症の状態には波があることを理解してほしいと思います。

 2.不安によるメンタル悪化防止
 不安は心の活気を低下させます。それにより体調が悪化するといった悪循環も見られます。契約社員などでは休職することにより今後どうなるのだろうという不安が生じ、気持ちが落ち込むという状況が生まれます。社内で勤務に関する不安を軽減できるサポート・相談体制をつくる必要があります。

 3.耳鼻科受診も視野に
 後鼻漏が原因でたんが絡んだり頭がすっきりしなかったりするという声を聞きますが、つらい人は専門医を受診して処置してもらえば解決の糸口になります。感染症の回復後に副鼻腔炎(ふくびくうえん)になり、いつまでたっても鼻づまりなどが治らない人は、耳鼻咽喉科で上咽頭炎の治療をすれば症状が改善に向かうことも報告されています。少しでも症状が改善すると気持ちが上向きになります。

 4.復職後はリモートも活用
 復職に当たっては、体調に波があることも踏まえ、出社だけでなくリモート勤務の活用が大事です。実例として挙げた30代女性のケースは、現場に出ると通勤や立ち仕事で負担が重いため、リモートのデスク業務で復帰できる態勢を取りました。体調に合わせて、できる事から少しずつ進めていくのが大事と言えます。

 5.生活リズムをキープ
 だるさや眠気があるとすぐ横になってしまうものですが、長時間の昼寝をすると生活リズムが乱れます。昼寝は10~20分程度にとどめましょう。朝は決まった時間に起きて太陽の光に含まれるバイオレットライトを浴びることも、生活リズムのキープと脳の活性化のために有効です。(了)

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