「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

5類までに3年かかった理由
~想定外の連鎖で長期化~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第61回】

東京都の感染状況を伝える電光ボード。オミクロン株による第7波では連日、多くの感染者が出た(2022年7月、渋谷区)

東京都の感染状況を伝える電光ボード。オミクロン株による第7波では連日、多くの感染者が出た(2022年7月、渋谷区)

 ◇オミクロン株という救世主

 そして、21年12月からオミクロン株という、さらに感染力の強い変異株が世界的に拡大します。この影響で、世界的には22年1月に今までで最大数の感染者が発生することになりました。日本でもこの時期に第6波が起こりますが、それより少し遅れた7月からの第7波で約1000万人と最大の感染者数を記録します。12月以降の第8波も約1000万人の感染者数となり、この結果、23年4月までに日本では累積感染者数が3000万人を超えることになりました。

 オミクロン株は感染力が強く、ワクチンによる感染予防効果も低下していたため、感染者数が急増しました。その一方で病原性は低く、ワクチンの重症化予防効果はある程度維持されていたことから、感染しても軽症で回復する人が大多数を占めました。このため、ワクチンだけでなく、感染により免疫を獲得した人が世界的に増加し、これが新型コロナの流行を収束へと向かわせました。

 オミクロン株の出現も想定外の出来事でしたが、これが結果的には新型コロナの沈静化に良い影響を与えたと考えることもできます。ある意味で救世主と言えるでしょう。

 ◇今後も想定外は起こるか

 このように想定外の出来事が何回も起きたことで、新型コロナの流行は3年以上の長い歳月を経てようやく制圧に近い状況にまで達したわけです。ただ、流行は終息したわけではなく、当分の間はコロナと共存する生活を続けていかなければなりません。

 では、この先、さらなる想定外の出来事は起こるでしょうか。今年の夏や冬に再び流行が拡大する可能性は十分に考えられるので、こうした流行の再拡大時には感染対策をある程度強化することが必要になります。

 それ以上の悪い状況として考えておかなければならないのが、オミクロン株に代わる新たな変異株が流行するという事態です。オミクロン株よりも感染力や病原性の強い変異株が出現したら、新型コロナは再び5類から2類相当に格上げされる可能性もあるでしょう。

 現時点でウイルスの状況を見ると、オミクロン株の枠内での変異は起きていますが、別の変異株が出現するような気配は見られていません。そうは言っても、今後、想定外という事態を起こさないようにするためには、最悪の事態も想定した監視体制や準備を整えておく必要があると思います。

 いずれにしても、まずは5類に移行したことで一息つきましょう。(了)


濱田特任教授

濱田特任教授

 濱田 篤郎(はまだ・あつお)氏
 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

  • 1
  • 2

【関連記事】


「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~