「医」の最前線 緩和ケアが延ばす命

QOL改善、延命も-緩和ケア〔1〕
「末期がん」だけではありません

 緩和ケアとは具体的には何をするのでしょうか。名称からも分かるように症状を緩和することは大切ですね。つらい症状を分類すると、大きく分けて四つあるとされています。

四つのつらさはからみ合っている

四つのつらさはからみ合っている

(1)身体のつらさ
(2)精神のつらさ
(3)社会的なつらさ
(4)スピリチュアルなつらさ=用語説明=

 ◇絡み合う四つのつらさ

 これらの四つのつらさは、それぞれが絡み合っています。

 痛みが強ければ、精神的なストレスも強くなります。不安で、いらいらしていれば、人間関係もうまくいかなくなるかもしれません。孤独や絶望が深まれば、がんという病気を得て、なぜこうして生きねばならないのか…、と生きる意味が揺らぎます。

 このように、さまざまな苦痛は相互に関係することがあり、丁寧にできる緩和から行っていき、全体が楽になって病気とうまく折り合えるように支援してゆくのです。

 そのために、症状を和らげる薬を用いることがあります。医療用麻薬やステロイド、その他の痛み止めなどを患者さんに合うように調整するのです。「でも、先生、私つらい症状があまりないので、緩和ケアは要らないと思うのですよ」。そういう方もしばしばいらっしゃいますね。

 ただ、ここで注目すべきなのが、「早期からの緩和ケア」です。

 ◇死亡リスクが低下

 肺がんの中の非小細胞肺がんで転移がある患者さんを「希望とかかわらずに緩和ケアの受診を行う」グループと「望んだら緩和ケアにかかれるが定期的に受診しない」グループとに分けて行われた研究が10年に発表されました(注1)。

 なんと、希望しなくても定期的に受診したグループのほうが生活の質は高く、抑うつは少なく、そして生存期間中央値が長かったのです。

ジュネーブの世界保健機関本部【AFP=時事】

ジュネーブの世界保健機関本部【AFP=時事】

 つまり、かかっている診療科と並行して緩和ケアを早期から受けることが義務だったグループのほうが、長生きする傾向が示されたのです。この発表は世界に大きなインパクトを与えました。

 その後も、さまざまな研究と発表が続いており、18年にも科学的根拠の高い水準の研究で、早期からの緩和ケアの併用により29%の死亡リスク減少が示されたものもあります(注2)。

 ◇苦しみを予防

 先述したWHOの定義でも、「緩和ケアとは(略)苦しみを予防し、和らげることで、クオリティー・オブ・ライフ(QOL)を改善するアプローチである」と書かれていることを紹介しました。

 苦痛が出てから対処をするのではなく、「苦しみを予防する」というのが緩和ケアなのです。困ってから緩和ケアにかかるというのでは遅く、そうなる前に積極的に問題の解決を図るということが早期からの緩和ケアなのです。それによって、生存期間の延長などの良い効果を目指してゆくのです。

 「でも症状がないのに、何を緩和するのですか」と尋ねられることもありますね。「話をするだけで、何が良いのですか」と。実は緩和ケアという名称は、やや不十分なところがあるのです。

 一つは、すでにそれが末期と同義の言葉として根付いてしまっていることですが、もう一つは症状緩和が緩和ケアと勘違いされそうな名称であることです。

 例えば早期からの緩和ケアに何が含まれるのかというと、症状を和らげるだけではなく、次のようなものが挙げられます(注3)。


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