「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

ウィズコロナ時代が見えてきた
~英国で社会実験、マスク着用など継続か?~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第24回】

 7月以降、日本だけでなく世界的に新型コロナウイルスの感染が再燃しています。これはインド由来のデルタ型変異ウイルスの流行拡大によるものです。デルタ型は従来のウイルスに比べて感染力が強いだけでなく、重症化も起こしやすいという報告が見られています。その一方で、デルタ型には日本で使われているファイザー社やモデルナ社などのワクチンが有効なようです。このため、世界的に感染者数は増加していますが、ワクチン接種が進んでいる国では死亡者数の増加が抑えられています。この「感染者は多いが死亡者は少ない」という状況は、今後のウィズコロナ時代を予測するための鍵になるかもしれません。今回はデルタ型の流行状況から垣間見える、コロナウイルスとの共存について解説します。

東京五輪の開会式で入場行進を終え、記念撮影する各国選手団=7月23日、国立競技場

東京五輪の開会式で入場行進を終え、記念撮影する各国選手団=7月23日、国立競技場

 ◇デルタ型の世界拡大

 デルタ型の変異ウイルスは2020年10月ごろにインドで初めて見つかりました。2019年12月に中国で新型コロナウイルスの流行が発生してから、ウイルスは何回も変異を起こしており、2020年秋には英国由来のアルファ型や南アフリカ由来のベータ型とともに、このデルタ型も誕生しました。ヒトに感染したばかりのウイルスは、変異を繰り返しながら、ヒトの体内で増殖しやすいタイプが主流になっていきます。これが2021年5月ごろまではアルファ型で、日本で見られた第4波の流行も、この変異ウイルスによるものでした。

 ところが、同年4月にインドでデルタ型が大流行を起こしてからは、この変異ウイルスが世界的な拡大を始めたのです。7月中旬に世界保健機関(WHO)が発表したデータでは、世界124カ国で流行が確認されており、東京でも7月から起きている第5波がデルタ型によるものです。

 WHOの報告では、デルタ型は今までのウイルスに比べて感染力が強く、感染者の体内でも増殖しやすいとされています。ある調査では、デルタ型の感染者から従来型より約1000倍も多いウイルスが排出されていました(WHO 2021年7月20日)。

 このように7月末の時点では、デルタ型が世界制覇を果たしている状況ですが、今後、ウイルスはさらに変異を繰り返し、ヒトの体内で増殖しやすいウイルスに置き換わっていくことでしょう。

 ◇二つの流行パターンに

 世界的な新型コロナの流行状況を見ると、2021年5月ごろから、ワクチン接種が広がった効果で新規感染者数は減少していました。しかし、6月末からデルタ型の拡大により再び増加傾向になっています。

 地域別では、今まで流行が抑えられていた東南アジアで感染者数が増加しており、特にインドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムなどで急増しています。また、ワクチンで流行が収束しつつあったヨーロッパ諸国や米国でも感染者数が増加しており、中東やアフリカでも流行再燃が起きています。

 このようにデルタ型の流行が拡大している国は数多くありますが、それを二つのパターンに分けることができます。

 第1のパターンは、感染者数が増加しているにもかかわらず、死亡者数が増えていない国。例えば、英国やスペインなどヨーロッパの国々がこのパターンになります。米国も7月から流行の再燃が見られていますが、死亡者数はあまり増えていません。日本も第5波の流行で感染者数が急増している中、死亡者数には大きな変化が見られていません。

 第2のパターンは、感染者数が増加するに従って、死亡者数も増えている国です。これには、東南アジアや中東の国々、さらにはロシアや南アフリカが入ります。

 ◇ワクチン接種状況の違い

 こうしたパターンの違いには、ワクチンの接種状況が影響していると考えられます。第1パターンの国々では、国内でワクチン接種が進み、デルタ型に感染しているのは未接種者や接種途中の人が中心になっています。特に重症化を起こしやすい高齢者は接種を完了しているので、死亡者が少ないのです。接種を受けている人がデルタ型に感染することも時にありますが、重症化は抑えられています。

 日本ではワクチンを完了している人が約20%とまだ低いのですが、高齢者はほぼ終了しているため、重症化する人はあまり多くありません。その結果、死亡者数も少なくなっているのです。

 一方、第2パターンの中には、ワクチン接種率が1割にも満たない国が多く、また、接種率が高かったとしても、中国製やロシア製などのワクチンを使用している国が見られます。例えば、ロシアは接種を完了した人が約15%いますが、自国で開発したワクチンを使用しています。また、東南アジアや中東では、主に使用されているワクチンが中国製です。中国製もロシア製も、従来型のウイルスには一定の効果が確認されていますが、デルタ型についてはほとんど評価されていません。効果が弱くなっている可能性もあるのです。

 ◇感染者増でも重症化を抑えること

 このように、ファイザー社やモデルナ社など、デルタ型に一定の効果が確認されているワクチンを接種しておけば、感染者が増えたとしても、重症者の急増は抑えられ、医療の崩壊を防ぐことができます。そして、最終的には死亡者の増加を抑えることになります。

 こうしたワクチンによる制圧を図る場合に考えなければならないのは、ワクチンがどれだけの期間、効いているかという点です。現在までの知見では、効果は半年~1年と見られており、それを越えると追加接種が必要になるでしょう。もう一つ懸念されるのは、ワクチンに抵抗性の変異ウイルスが、今後、誕生する可能性です。これに備えるには、常に変異ウイルスの動向をモニターし、ワクチンに抵抗性のウイルスが出現すれば、新たなワクチン製造を開始することです。ファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンであれば、ウイルスの変異に応じて、新しいワクチンを迅速に開発することができます。

新型コロナウイルスに絡む規制が、ほぼ全廃されたロンドンの繁華街=7月19日

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 ◇ウィズコロナのためのチャレンジ

 変異ウイルスが次々に誕生している状況を考えると、新型コロナウイルスの流行を完全に終息させることは恐らく困難でしょう。それであれば、インフルエンザの流行と同じように、新型コロナの流行と共存することを考えるべきです。

 そのためには、ワクチン接種を中心にした戦略を練ることになりますが、同時にマスク着用やソーシャルディスタンスなど、生活面の注意も続ける必要があるのでしょうか。この答えを出すために、英国では今年の7月中旬から多くの生活面での制限を解除しています。このチャレンジの結果が明らかになるには、もうしばらく時間がかかるでしょう。

 日本はワクチン接種率がまだ低い上に、東京五輪という大きなイベントの最中にあります。今はワクチン接種を進めるとともに、引き続き生活面の注意を継続することが必要です。特にデルタ型は若年者にも重症化を起こすことがあるため、油断は禁物です。もうしばらくは緊張した日々を送らなければなりません。(了)


濱田篤郎 特任教授

濱田篤郎 特任教授

 濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏

 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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