こちら診察室 熱中症と対策

熱中症対策の切り札、経口補水液
~水分を素早く血液へ、点滴と同等の効果~ 第6回

 本連載では、コロナ禍で迎える2回目の夏、熱中症をどう乗り切るかというテーマで、市民の力で熱中症を予防することを目標にさまざまな対策を紹介してきました。熱中症の予防は効果があり、重要なことです。とはいえ、十分な予防をしても熱中症が発生することは避けられません。

 予防に加え、医療従事者に負担を掛けないために必要なことは、熱中症を悪化させないことです。軽度の熱中症であれば、病院に行かなくても前回の連載で述べた暑熱回避、脱水症の改善および身体の冷却で重症化を防ぐことができます。

経口補水液

 そこで、市民の方に知っておいていただきたい対策がミネラルウオーターやお茶ではなく、水と電解質が補給・維持できる経口補水液を用いた脱水症の対処法です。後遺症を残さないためにも、熱中症を疑ったら一刻も早く経口補水液を摂取させてください。そのためには経口補水液のことをよく知って、上手に使うことが必要です。

 脱水症の治療として経口補水液を用いる補水方法のことを経口補水療法と呼んでいます。経口補水療法は1940年代から研究が始まり1960年代に開発途上国で注目を集めた、水と電解質の補給方法です。

 初めは、コレラなどの感染性胃腸炎が原因となって起こる下痢による脱水症の治療で輸液(点滴)の代わりに使用されていました。その後、わが国には2000年代に広まり、現在では下痢や嘔吐(おうと)、発熱に伴う脱水症や脱水症を伴った熱中症の治療に活用されています。

 経口補水療法のメリットは、①口から飲むという生理的な方法で水、電解質の補給ができる②点滴や針を刺すなど特別な器具や技術を必要としない③入院せずに外来での治療が可能、などが挙げられます。

 軽度の熱中症では、脱水症の症状が主ですので、早期に経口補水液を摂取させることで、改善および重症化の予防が期待できます。私たち医師が参考とする熱中症診療ガイドライン(2015年、日本救急医学会)にも、熱中症の予防・治療には市販の経口補水液を摂取させることが明記されています。

 経口補水液は、輸液(点滴)と同等の水・電解質補給の効果および効果の速さを有しています。ヒトの身体に摂取された水分(水・電解質)は小腸で約95%が吸収され、残りが大腸で吸収されます。経口補水液も小腸で吸収され、小腸においてもっとも水・電解質の吸収が速く行われます。

 経口補水液は水、塩分および糖分の3種類の成分からできています。スポーツドリンクに比べて塩分が約3倍、糖分は1/3の濃度、つまり、少し塩辛く甘さ(カロリー)控えめになっています。

 この組成にはメリットが二つあります。一つ目は、摂取した水分が胃から小腸に素早く移動できることです。私たちが摂取した食べ物や飲み物は胃から小腸に移動して、小腸で体内に吸収されます。この移動を制御しているのが小腸から胃の出口(幽門)に送られる信号です。糖分の高いものは(蛇口=幽門を締めて)胃の中に長くとどまり、糖分の低いものは(蛇口=幽門を開いて)胃の中を素早く抜けて小腸に移動するのです(上図)。

 二つ目は、小腸にたどりついた水分を素早く血液の中へ移動させることができるのです。この仕組みは医学的にはナトリウム・ブドウ糖共輸送機構と呼ばれています。簡単に言い直すと、小腸の粘膜からナトリウム(塩分)とブドウ糖(糖分)が結合して、そこへ水を巻き込んで血液内に入ることができる機構です(下図)。市販の経口補水液の組成が、この機構を効率的に働かせてくれるのです。

 以上の二つのメリットから、経口補水液は輸液(点滴)と同等の効果があると考えられています。つまり、経口補水液は水と塩分を速やかに吸収・補給できるように、塩分と糖分の量やバランスを調整した飲料であります。従って、市販の経口補水液を薄めて飲んだら効果がなくなると考えてください。氷を入れたり、沸騰させて水を蒸発させたり、甘い果汁などを混ぜたりしても効果が低減しますので注意しましょう。

 熱中症の傷病者に対する具体的な経口補水液の飲ませ方について説明します。まずは、重症度判定をして、意識がしっかりしていて、自分で飲水可能な場合には速やかに経口補水液を摂取させましょう。

 初期には500~1000ml(小児ならその半分を目安に)を30分以内に摂取させます。その後は、少量ずつ30分間に500ml程度(小児ならその半分を目安に)くらいを摂取させます。症状が改善して、通常の食事が摂取できるようになれば経口補水液をいつまでも飲ませることはやめ、通常取っている水分や食事を取るようにしましょう。

 経口補水液を摂取すると軽度の熱中症であれば改善して元気になります。熱中症に伴う脱水症が改善したか否かは、爪の血流や皮膚の張りから判断できます。判断はどなたでも実施可能で、QRコード(左図)から動画で閲覧できますので、一緒にやってみてください。

 改善したとしても、身体は熱中症のダメージを受けているので、その日は安静に過ごすようにしましょう。その際に、自宅では一人きりにならないで、必ず誰かが状態を確認できるようにしておきましょう。

 腎臓病、心臓病や糖尿病を患っている方は、改善しても必ずかかりつけ医に診てもらってください。理由は、臓器にダメージが及んでいる場合があるためです。塩分制限、糖分制限、および水分制限(透析患者さんなど)を日頃から指導されている方は、経口補水液500mlを摂取して、その後はかかりつけ医に診てもらい判断を仰ぎましょう。脱水症の際に、経口補水液を500ml摂取しても、心臓病、糖尿病、高カリウム血症などを悪化させることはありません。放置して脱水症を伴う熱中症を悪化させる方が予後は悪くなります。

 また、小児の熱中症は脱水症状が急速に進み、予後を悪くさせます。目の前に熱中症の傷病者がいたら、迷っている時間はありません。まずは、経口補水液を500ml飲ませてあげてください。本連載で、掲載しきれなかった脱水症や熱中症の情報は著者が副委員長を務めている団体である「教えて!かくれ脱水委員会」のサイトをご覧ください。医療従事者の方々は著者が開催するWebセミナー「はじめてとりくむ水・電解質管理」=QRコード(上図)=にご参加いただくと良いと思います。(了)


谷口英喜医師

 谷口英喜(たにぐち・ひでき)

 麻酔科医師 医学博士

 済生会横浜市東部病院 患者支援センター長兼栄養部部長。1991年、福島県立医科大学医学部を卒業。専門は麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養、周術期体液・栄養管理など。麻酔科認定指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医、東京医療保健大学大学院客員教授、「かくれ脱水」委員会副委員長を併任。脱水症・熱中症・周術期管理の専門家として、テレビ、ラジオに多数出演。年に1冊のペースで、水電解質、経口補療法に関する著書を出版。2021年6月に「はじめてとりくむ水・電解質の管理 上下2巻」を発売。

こちら診察室 熱中症と対策