「医」の最前線 新専門医制度について考える
長寿とともに増え続ける目の病気
~中高年からの眼科医との付き合い方~ 第12回
医療技術の進歩、保険制度の充実、昨今の健康意識の高まりで日本人の平均寿命は右肩上がりで延びている。それとともに急増しているのが加齢による目の病気だ。老眼や白内障だけでなく、目の老化によって失明につながる重篤な病気を発症するリスクが高まる。視覚障害や視力の低下は認知症の進行を速め、家に引きこもりがちにもなる。増え続ける患者に日本の眼科医療ができることは何か。眼科医療の現状や最先端の治療技術、早期発見のためのアドバイスを日本眼科学会専門医制度委員会委員長を務める近藤峰生医師(三重大学眼科教授)に聞いた。
近藤峰生医師
◇中途失明の急増に二つの病気
眼科領域で最近増えている大きな病気が二つあります。一つは「加齢黄斑変性」です。スクリーンの役目を果たしている「網膜」の中心部の細胞が、老化が原因で萎縮したり出血したりして視力が低下する病気です。世界的にも失明の大きな原因となっています。近年、この病気の悪化因子であるVEGFという物質をブロックする注射薬が開発され、以前に比べて視力が維持できるようになってきました。
ただ、薬を投与しても完治は望めず、1回8万~15万円(3割負担で2.5万~4.5万円)程度の高額な薬を2~3カ月ごとに注射し続ける必要があります。患者数の増加とともに医療費も膨れ上がり、国にとっても患者さんにとっても大きな負担となっています。
もう一つの重要な病気は失明原因トップの「緑内障」です(図1)。日本人の推定患者数は約400万人、40歳以上の20人に1人は罹患(りかん)すると言われています。緑内障は視神経の障害により視野が少しずつ欠けていきます。欠けた視野が元に戻ることはなく、ほっておくと徐々に進行し、失明に至る場合もあります。進行を遅らせるためには、こちらも薬や手術などの治療を一生続けなければいけません。
図1
中途失明原因の1位だった「糖尿病網膜症」は、現在では新しい糖尿病の治療薬や患者教育が行き届いたこともあり、重症化して失明に至る患者さんが減少傾向にあります。まさに、医学の努力のたまものと言えます。目が不自由になることは認知症の進行にもつながります。外に出て活動することがおっくうになり、運動不足で足腰が弱くなる運動器障害を引き起こすことも少なくありません。実際のところ、白内障の手術やその他の目の病気を治療して視力が良くなることで、患者さんの活動性が高まり、認知症や気分障害が劇的に改善したということもデータで示されています。
◇iPS、AIに期待が高まる
眼科の最先端治療では、再生医療と人工知能(AI)による画像診断が大きな柱となっています。特に眼科分野の再生治療では、2014年に理化学研究所の共同チームが世界で初めてiPS細胞から作った網膜細胞シートを眼の中に移植する臨床研究に成功しました。これは日本の眼科学における大きな偉業の一つです。角膜の分野の再生医療も進んでおり、実際に自家培養角膜上皮シートは臨床応用されるところまで進んでいます。
さらに、眼科分野のAI画像診断技術も欧米や中国との激しい競争の中で開発されています。現在、光干渉断層計(OCT)を使って眼球の構造を立体的に捉える検査が一般に普及しており、このOCTや眼底カメラを使って撮影した瞬間に可能性のある病気を知らせるAI技術が開発され、実装段階に入っています。人工知能を活用することにより、効率的に診断できる時代が来ているのです(図2)。
図2
◇学ぶことが多い眼科専門医
眼科医になるのは楽で、志望者が増えて余っているという一部誤解を生む情報が流れているようですが、実は専門医取得に関しては非常に厳しく、教育や研修をかなりしっかりやっている科でもあります。専門医の資格試験は4~5人に1人は不合格になるほどで、合格率は他の診療科に比べても高いわけではありません。
専攻医研修では眼科全体をしっかり学び、資格取得後、さらに網膜、角膜、緑内障、神経眼科、斜視弱視といった、より専門的な分野に磨きをかけます。眼科は新しい知識や技術のアップデートが速いため、資格取得後も学会や講習会に頻繁に参加し、5年ごとの更新時には多くの単位を取得しておく必要があり、常に学び続ける努力が求められるのです。
専門医試験をクリアし、標準治療をマスターしている医師であれば、受診の入り口として安心して相談できるのではないかと思います。現在、日本眼科学会に登録している約1万5000人の眼科医のうち、約1万人が専門医を取得しています。眼科専門医は眼科学会のホームページで調べることができますので、最近は専門医かどうかを確認してから受診される患者さんも増えているようです。
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(2022/06/15 05:00)
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