「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

5類までに3年かかった理由
~想定外の連鎖で長期化~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第61回】

 新型コロナウイルス感染症が5月8日から5類に移行します。これに伴って感染対策の緩和が進むとともに、日本各地でコロナ前の活気が戻ってきました。この間に3年という歳月が過ぎましたが、感染症の流行で私たちの生活がこれだけ長期間にわたり影響を受けたことは近年ありませんでした。これは、私たちが経験したことの無い想定外の出来事が連鎖したためなのです。今回は新型コロナの流行が長期化した理由と、この感染症の今後の行方について考えてみます。

新型コロナの5類移行を前ににぎわいを見せる観光地(4月、京都市の清水寺への参道)

 ◇未知の病原体の世界流行だった

 新型コロナウイルスは、もともとは動物の病原体だったと考えられています。それが2019年末以降、ヒトの間で流行するようになり、世界拡大していきました。つまり、ヒトにとっては未知の病原体だったことが最大の想定外でした。

 人類の歴史を振り返ると、中世のペストや19世紀のコレラなど、大規模な感染症の流行は何回も起きていますが、いずれも風土病として流行していた感染症が世界的に拡大したものでした。しかし、新型コロナの場合は未知の病原体がまん延したもので、発生直後にその流行を予測するのは大変に難しいことでした。

 今までに動物の病原体がヒトに感染し、世界拡大したケースとしては、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行があります。この時は、中国で流行が発生してから半年ほどで流行が制圧されているため、新型コロナも流行当初は同様の経過をとるものと考えられていました。

 ◇感染力も強く致死率も高かった

 ところが、20年1月から中国国内で流行が拡大するとともに、想定外のことが明らかになってきます。新型コロナの感染力はSARSよりもかなり強かったのです。SARSは発熱などの症状が出てから周囲の人に感染を起こしますが、新型コロナは発病前の潜伏期間中も感染の危険性があるのです。つまり、SARSの場合は発病した人を隔離することで感染拡大を抑えることができましたが、新型コロナはそれだけでは不十分でした。このため、20年3月になると流行は欧州や中東など世界各地に飛び火していきました。

 こうして世界拡大していく中で、新型コロナは致死率も高いことが分かってきます。当初の中国での流行では、致死率は2~3%とSARSの10%に比べて低いとされていました。しかし、欧州で流行が急拡大する中、致死率は10%近くまで上昇したのです。これはウイルスの病原性が高まったわけではなく、患者数の急増で医療崩壊が起こり、その結果として治療できずに死亡する人が増加したためでした。

 このようにSARSよりも感染力が強く、さらに致死率も医療崩壊で高くなることが明らかになった時点で、感染症関係者の多くは新型コロナの流行が容易に制圧できないと考えるようになりました。

 ◇ワクチン開発と変異株の出現

 このように感染力の強い呼吸器感染症の流行を抑えるためには、ワクチン接種が最も有効な方法です。しかし、未知の病原体であるため、当初はその開発までに数年以上かかると予想されていました。

 しかし、mRNAワクチンや遺伝子組み換えワクチンなどの新技術により、開発の期間は1年に短縮されたのです。新型コロナワクチンは20年12月までに完成し、欧米諸国などで接種が開始されました。これは良い意味での想定外の出来事でした。

 その一方で、20年秋から変異株の出現という新たな想定外の出来事が起こります。特に英国で発生したアルファ株は、21年1月になると世界的に拡大し、日本でも第4波の流行を起こしました。

 さらに、21年5月にはインドでデルタ株という変異株が大流行を起こし、日本でも7月から第5波として流行します。この変異株は感染力だけでなく病原性も強くなっており、東京オリンピック・パラリンピック開催の中で、感染者や重症者が急増することが懸念されました。しかし、日本ではこの時期にワクチン接種が驚異的なスピードで進み、第5波は大きな被害を生じることなく収束していきました。

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