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サービス担当者会議のポテンシャル 第3回

 ◇本人を追い込むことも

 そんなサービス担当者会議だが、ともすると利用者本人の生活態度の是正に意見が集中しがちになる。

 例えば、前の会議で利用者の同意の下で決めた散歩の日課を守れず、薬を飲まないことが目立ってきた利用者がいたとする。家族を含めた参加者一同が、代わる代わる利用者をたしなめる。当然、本人の健康を願ってのことなのだが、利用者からすれば四面楚歌(そか)。被告人になったような気分となる。

 ◇ケアマネジャーの下ごしらえ

 サービス担当者会議は、本人主体の在宅ケアを進めるために大きなポテンシャル(潜在的な可能性)を秘めている。ただし、運用によっては、ポテンシャルは縮んでしまう。ポテンシャルを発揮させるかどうかは、ケアマネジャーの腕にかかっている。

 北陸の雪深い町で行われたサービス担当者会議を取材した時、ケアマネジャー(小野美香子さん・仮名)の入念な準備に感心したものだ。

 小野さんは会議の30分前に利用者宅を訪れた。会議の主役である男性利用者(柳田一郎さん・仮名・80歳)と十分に打ち合わせるためだ。その日に話し合いたいことを柳田さんに説明するとともに、希望を丁寧に聞き取っていく。そして、ここが肝心な所だが、「どんな場合でも、私は柳田さんの味方です」と念を押したのだ。

 それに先立ち、小野さんは会議の参加予定者すべてと意見を交わしておく。その中で、看護師と薬剤師は「最近、眠剤の服用が増えている」と口をそろえた。また、理学療法士は「リハビリを休みがちである」と言った。柳田さんは「どうぞはっきりと問題点を指摘してください」と返事をした。

 ◇見事な役割分担

 こうして会議が始まった。

 冒頭、小野さんは「これから1年、何を応援したらいいのかと思い集まってもらいました」と会議の目的を告げた。

 会議では、「自分で雪かきをしたい」という本人の希望を受け、看護師らが転倒を招きかねない生活上の問題点を次々に指摘する。小野さんは柳田さんの隣に座り、参加者が繰り出す指摘をかみ砕いて本人に説明する。その上で、本人の思いをサポートしながら、参加者たちと今後の療養生活の折り合いどころを探っていく。攻め方と守り方、見事なまでの役割分担だ。

 専門職から数々の指摘を受ける柳田さんだが、孤立感はない。会議を通してケアマネジャーの小野さんが寄り添ってくれるからだ。

 会議は1時間に及び、「引き続き『チーム柳田』でよろしくお願いします」という小野さんの言葉で終了した。

 参加者たちを送り出し、居残った小野さんに、柳田さんは「さわやかな会議で良かったね」と目を細めながらささやいた。(了)

 佐賀由彦(さが・よしひこ)
 1954年大分県別府市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。フリーライター・映像クリエーター。主に、医療・介護専門誌や単行本の編集・執筆、研修用映像の脚本・演出・プロデュースを行ってきた。全国の医療・介護の現場を回り、インタビューを重ねながら、当事者たちの喜びや苦悩を含めた医療や介護の生々しい現状とあるべき姿を文章や映像でつづり続けている。中でも自宅で暮らす要介護高齢者と、それを支える人たちのインタビューは1000人を超える。


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