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サービス担当者会議のポテンシャル 第3回

 介護保険では「サービス担当者会議」の開催が義務付けられている。同会議はケアマネジャーが主催し、利用者、家族、サービス担当者、主治医などが一堂に会して、利用者や家族の希望、今後の介護サービスの方針や留意点をすり合わせていくために開かれる。利用者の退院を前にして病院で会議を開くことはあるが、在宅療養者であれば、利用者の自宅で開催するのが基本だ。

雪深い町で行われたサービス担当者会議。ケアマネジャーは誰よりも先に利用者宅に向かった=大隅孝之撮影

雪深い町で行われたサービス担当者会議。ケアマネジャーは誰よりも先に利用者宅に向かった=大隅孝之撮影

 ◇本人が参加する意義

 サービス担当者会議の特長は、何と言っても利用者本人が会議に参加することだ。ケアや治療の方針を決める会議(カンファレンス)は、介護保険以前から、もちろん行われていた。ただし、専門職同士の意見交換が主な目的であり、利用者本人の参加は一般的ではなかった。

 本人不在で本人の今後を議論する。そんな現状に「私のいない所で決めないでほしい」と叫んだ利用者を知っている。

 ◇二つの会議

 介護保険では、「地域ケア会議」の開催も義務付けられている。同会議は中学校圏域を目安に設置される地域包括支援センター、または市町村が主催するもので、医療介護の専門職や行政職員などが参加し、個別事例や地域課題の検討を行う。

 サービス担当者会議が実際にサービスを提供している当事者たちだけで行われるのに対し、地域ケア会議で個別事例の検討を行う場合は、当事者以外の人たちも参加する。前者は利用者・家族の参加が原則だが、後者は利用者・家族が参加しないことが多い。

 ◇傍聴して覚えた怒り

 筆者は関東地方の小都市で行われた地域ケア会議を傍聴したことがある。そこでは、あるケアマネジャーが提出した、個別事例の検討が行われた。

 同会議で検討されたのは、何と「専門職や家族が説得しても、利用者本人がデイサービスに行きたがらないのでどうすればよいか」という内容だった。

 会議は本人の心身の状態、介護の状況などの情報を共有した後、デイサービスに行かせるための「手練手管」に終始した。手練手管とは、うまいことを言って相手をだます技巧だ。参加者たちが寄ってたかって本人を丸め込む方法を議論する。傍聴していて怒りさえ湧いてきた。

 別の地域で行われた地域ケア会議では、クレームの多い本人からの電話をたらい回しにする方法がいたって真面目(?)に議論されていた。いずれも本人不在の会議が陥りやすい倫理上の盲点だ。

 もちろん、地域ケア会議の多くが倫理上の問題を抱えているわけではないことも報告しておきたい。

 ◇開催の時期と場所

 サービス担当者会議も数多く取材した。その多くが利用者宅での開催だった。

 会議は要介護認定を受けて新しくサービスの利用を始める際や更新認定が行われた際、または何かのトラブルが発生した際に開かれる。

 場所は自宅で、利用者が無理なく参加できる所。寝たきりの利用者の場合は、ベッドの周りに家族、サービス担当者、ケアマネジャーが扇形に座る。

 ◇狭くても、散らかっていても

 広い自宅ばかりではない。床に座り切れないサービス担当者がベッドの上に陣取って始まった会議もあった。

 瀬戸内海を臨む地方の自宅では、部屋が足の踏み場もないほど散らかっていた。男性の1人暮らし。参加者たちは立ったままで会議に臨んだ。夏の暑い日だった。部屋にエアコンはない。参加者の多くは首にタオルを巻き、手に持った書類に汗がポタポタと滴る。だが、どの担当者もケアマネジャーも、そして男性も表情は明るい。

 会議が終わった後、男性は「暑い中、本当によく来てくれたね」と上機嫌で参加者たちを送り出した。

 ◇本人が主役の会議

 サービス担当者会議の主役は利用者本人である。東北地方の女性利用者は、いわゆる「農家の嫁」だ。家族の誰よりも早く起き、誰よりも遅く寝る。身を粉にして農作業や家事を続けてきた。ただその人生は、しゅうとや夫の陰でいつも控えめだった。しゅうとと夫が他界した後、今度は嫁が前に出た。

 そんな女性が主役になれる場がサービス担当者会議だ。サービス担当者の誰もが女性を向いて発言する。女性は戸惑った表情を見せながらも、終始笑顔でうなずいていた。

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