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手、足、脇などに過剰な汗
~日常生活に支障来す多汗症~ 【第11回(最終回)】

 汗は皮膚にある汗腺という器官から分泌される液体です。体温調節、感染防御、滑り止めなど、さまざまな機能があります。運動や熱などで汗をかきますが、このような生理的な必然性がなくても多量の汗が出てしまうのが多汗症で、日常生活に支障を来す場合もあります。

衣服の脇の下の部分が汗で濡れている

衣服の脇の下の部分が汗で濡れている

 ◇大半は局所的で原因不明

 この病気には全身の発汗が増加する全身性多汗症と、体の一部で汗の量が増える局所多汗症があります。

 全身性多汗症は、特に原因の分からない原発性と、何らかの疾患が誘因となる続発性(二次性)に分類されます。続発性は感染症や内分泌代謝異常、神経疾患に由来する場合があります。具体的には甲状腺機能亢進(こうしん)症、低血糖、更年期、褐色細胞腫などが挙げられます。

 局所多汗症も原発性と外傷や腫瘍などの神経障害に起因する続発性があります。多汗症のほとんどは原発性局所多汗症であり、手のひら、足の裏、脇、顔、頭という限られた部位からの過剰な発汗が認められます。

 ◇診断は問診重視

 多汗症の診断は患者本人の訴えが最も重要になるため、問診を重視します。病院を訪れた際に汗をかいているとは限らないため、原発性局所多汗症については下記の基準に照らして診断が下されます。汗が多い部位を客観的に診るために、発汗検査を行うこともあります。

 また、続発性多汗症でないことを確認するために、甲状腺機能亢進症低血糖など何らかの病気が隠れていないか血液検査を行います。汗以外の症状があり、他の病気の存在が疑われる際には、原因となる病気に応じて検査が追加検討されることになります。

 〔診断基準〕

 原因不明の局所性発汗=掌蹠(しょうせき=手のひらや足の裏)、腋窩(えきか=脇の下)、顔面、頭部=が6カ月以上持続しているのに加え、
 ・発症が25歳以下
 ・左右対称に汗をかく
 ・家族に既往歴がある
 ・睡眠中は発汗が止まっている
 ・週に1回以上、多汗の症状が出る
 ・日常生活に支障を来す
という6項目のうち2項目以上を満たす。

 手や足の汗は滑り止めとしての役割を持っていますが、量が多いとペンや物を持つときなどに滑って文字がうまく書けなかったり、サンダルが履けなかったりすることもあります。腋窩が汗で濡れていると、手を挙げたり、電車のつり革につかまったりするのを避けがちになります。頭部や顔からの汗の場合はハンカチが手放せず、人と対面するのが苦手になってしまうこともあります。その結果、日常生活のちょっとした動作に支障が出て、精神的な負担につながったりするケースも少なくありません。適切な対処法を取ることが大切です。

 ◇治療に選択肢

 続発性多汗症では、原因となっている病気が明らかであれば、その病気の治療を行います。

 原発性多汗症の治療は対症療法となります。発汗部位や汗の重症度に応じた選択肢があり、一つもしくは複数の治療を組み合わせます。目標は汗が減少して日常生活を普通に送れるようになることです。

 〔原発性局所性多汗症に対する主な治療〕

 ・外用剤
 塩化アルミニウムと抗コリン薬があります。前者は古くから行われる治療法ですが、製薬ではなく処置薬としての扱いになります。最近では腋窩の多汗症、手掌の多汗症に対して抗コリン作用を持つ外用薬が登場しました。重症度によっては処方できます。ただし、目に付着すると瞳孔が開く可能性もあるため、使用の際は薬液が付いた手で目をこすったりしないよう注意が必要です。

 ・イオントフォレーシス療法
 手のひらや足の裏の局所性多汗症に対しては、皮膚に電流を流して発汗を抑制する「イオントフォレーシス療法」という方法もあります。治療には保険が適用されます。用いるのは微弱な電流なので痛みや副作用はありませんが、繰り返して治療する必要があります。

 ・A型ボツリヌス菌毒素局所療法
 
汗が多い部分にボツリヌス菌毒素を注射する治療です。重度の腋窩多汗症については保険が適用され、その他の部位への投与は保険外となります。

 ・その他
 腋窩多汗症に対しては、マイクロ波により汗腺を焼しゃくする(焼く)という方法もあります。また重症の局所性多汗症に対しては、汗腺支配神経である「胸部交感神経」をブロックする「交感神経遮断術」があります。

 汗のせいで日常生活に支障が出るようなら、皮膚科を受診して相談しましょう。(了)


木村有太子(きむら・うたこ)
 医学博士、順天堂大学医学部皮膚科学講座講師(非常勤)。
 2003年獨協医科大卒。同年順天堂大医学部附属順天堂医院内科臨床研修医、07年同大浦安病院皮膚科助手、13年同准教授、16年独ミュンスター大病院皮膚科留学。21年より現職。
 日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本美容皮膚科学会理事、日本医真菌学会評議員、日本レーザー医学会評議員。

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