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婦人科医が教える生理のウソ・ホント
~災害に備える~

 災害時における女性特有の健康管理について、婦人科医としての立場から改めて考えさせられる出来事がありました。2024年元日に発生した能登半島地震です。今回は、災害時に特に注意が必要となる女性の健康問題の中から、基本中の基本である「生理」について、改めて整理してみます。

1日に必要なナプキンの枚数は出血量の多い日で5〜8枚(イメージ画像)

1日に必要なナプキンの枚数は出血量の多い日で5〜8枚(イメージ画像)

 ◇生理は体の大切なリズム

 そもそも生理とは何なのでしょうか? 医学用語では「月経」と呼ばれ、子宮内膜が周期的に剝がれ落ちる際に起こる正常な出血のことです。「生理は月に1回だけのもの」と思われがちですが、実際には25~38日周期で訪れ、出血は通常3~7日間続きます。出血量は1日当たり約20~140ミリリットルで、始まってから2~3日目に最も出血量が多くなる傾向にあります。

 この数字を見ただけでも、生理期間中の女性がいかに慎重な体調管理を必要としているのかが分かるのではないでしょうか。

 現在、生理用品にはさまざまな選択肢があります。ナプキン、タンポン、布ナプキン、月経カップ、吸水ショーツなどです。中でも最も一般的なのは、薬局やコンビニエンスストアで手軽に入手できるナプキンです。ナプキンの必要枚数は①出血量の多い日は5~8枚②普通の日は3~6枚③少ない日は2~3枚―と、生理の状態によって大きく異なります。

 ◇非常時のケア、見過ごされがちに

 過去の災害時の教訓として特に重要なのは、同じナプキンを6時間以上使用し続けるリスクです。経血の漏れや衣服の汚れはもちろんのこと、かゆみ、肌荒れ、不快な臭いの原因となります。避難所など非日常的な環境下では、これらの問題がより深刻化する可能性が高くなります。

 過去の震災では、避難所で女性1人当たり1枚のみが配布されたという報告もありました。先ほど紹介したナプキンの必要枚数を考えれば、「同じナプキンを一日中使っても大丈夫」という情報が誤りであり、いかに不十分であるかは明らかです。

 ◇女性・子どもへの性暴力リスクにも注意

 さらに重要な問題として、災害時には残念ながら女性や子どもに対する性暴力のリスクが高まることが知られています。これに対しては、以下のような対策が重要です。

 ● 避難所での単独行動を避ける
 ● 一時帰宅の際も複数人で行動する
 ● 周囲の人々が性暴力に対して見て見ぬふりをせず、声を上げる

 このような状況に遭遇した場合、または不安を感じた場合のために、内閣府による無料相談チャット「Curetime」があります。災害時に限らず、平時でも利用可能なサービスなので、困っている方がいればぜひ教えてあげてください。

家族間で女性特有の健康管理について話し合っておきたい(イメージ画像)

家族間で女性特有の健康管理について話し合っておきたい(イメージ画像)

 ◇平時からの備えが命守る

 生理は女性の体にとって自然な営みですが、災害時には通常以上の準備と配慮が必要となります。日頃から①十分な生理用品のストック②替えの下着③ウエットティッシュなど清潔を保つための衛生用品―を備蓄しておくとよいでしょう。

 また、家族間で女性特有の健康管理について話し合っておくことも重要です。災害時は、普段当たり前に手に入るものが手に入らない状況が発生します。「もしも」のときのために、正しい知識を身につけ、必要な準備をしておきましょう。

 私も一人の医療従事者として、災害時の女性支援について、さらに理解を深め、より良いサポート体制の構築に努めていきます。この記事が、皆さまの防災への意識を高めるきっかけとなれば幸いです。

 最後に、被災した方々にお見舞いを申し上げるとともに、現在も避難生活を送っている方々に心からのエールを送ります。一日も早い復興を願っています。(了)

沢岻美奈子院長

沢岻美奈子院長

沢岻美奈子(たくし・みなこ)
 琉球大学医学部を卒業後、産婦人科医として25年以上の経歴を持つ。2013年1月、神戸市に女性スタッフだけで乳がん検診を行う沢岻美奈子女性医療クリニックを開院。院長として、乳がんにとどまらず、女性特有の病気の早期発見のための検診を数多く手掛ける。女性のヘルスリテラシー向上に向け、インスタグラムやポッドキャスト番組「女性と更年期の話」で、診察室での患者とのリアルなやりとりに基づいたストーリーを伝えている。
 日本産科婦人科学会専門医、女性医学学会認定医、マンモグラフィー読影認定医、乳腺超音波認定医、オーソモレキュラー認定医。漢方茶マイスター。

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