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食生活で改善!鉄欠乏性貧血

 生理が近づくと、頭痛や腹痛のせいで仕事や家事が思うように進まなかったり、体がだるく感じたりすることはありませんか? 「生理のときの経血量が多く、痛みが強い」「周期が不規則」など、月経について悩む方は少なくありません。「疲れが取れない」「気分が落ち込みやすい」といった、なんとなく調子が悪い日が続いている方もいるかもしれません。

 これらの症状には鉄欠乏性貧血が隠れている可能性があります。鉄分不足を放置すると、体調のさらなる悪化を招くだけでなく、日常生活に大きな影響を及ぼすことも考えられます。つい見過ごしてしまう症状ですが、軽視せずに早めの対策を心掛けましょう。

身近なトラブルは鉄欠乏性貧血が隠れているサインかも(イメージ画像)

身近なトラブルは鉄欠乏性貧血が隠れているサインかも(イメージ画像)

 ◇月経トラブルが引き金?

 月経のある女性は1カ月に平均60ミリリットルの出血があり、その際に約30ミリグラムもの鉄分を失うと言われています。鉄は酸素を全身に運ぶために欠かせない成分です。鉄分が不足すると細胞や組織に十分な酸素が届かなくなり、体にさまざまな不調が表れる原因となります。

 例えば、めまいや立ちくらみ、疲れやすさ、倦怠(けんたい)感、頭痛、肩こり、動悸(どうき)息切れなどが挙げられるでしょう。それだけでなく、鉄分不足は心の健康にも悪影響を及ぼします。気分の落ち込みや集中力の低下、不安感といったメンタル面の不調も見逃せません。このような症状が続く場合は鉄欠乏性貧血を疑い、適切な治療を受けることが大切です。

 ◇女性が知っておきたい鉄分と健康の関係

 鉄分は体内で作り出すことができず、食事から摂取する必要があります。ただ、たとえ1日に10ミリグラムの鉄分を摂取したとしても、吸収されるのはわずか1ミリグラム程度です。さらに、女性は月経による出血や日々の汗、排せつで鉄分を失いやすいため、慢性的な鉄不足に陥りやすい傾向があります。

 鉄欠乏性貧血は自覚症状がないまま進行する場合が多く、「たかが貧血」と軽視されてしまうことも少なくありません。また、日本人女性は他国と比較して圧倒的に鉄分が不足していると言われ、特に月経がある女性は鉄分不足が常態化しているのが実情です。貧血改善には、毎日の生活の中で鉄分をコツコツと摂取し続けることが欠かせないでしょう。

 ◇40代女性患者の取り組み

 ここからは40代前半の女性Aさんのケースを紹介します。Aさんは経血が多く、痛みも強いことから当院を訪れました。加えて、月経不順や頭痛、倦怠感にも悩まされており、ピルによる治療を希望していました。診察の結果、子宮に問題はなく、子宮筋腫などの疾患も見られませんでしたが、採血検査で貧血が判明したのです。

 健康な状態の血液の基準値は通常、ヘモグロビンが1デシリットル当たり14グラム以上、フェリチンが1ミリリットル当たり100ナノグラム(ナノは10億分の1)以上とされています。Aさんのヘモグロビン値は9.1グラム、フェリチン値は3ナノグラムと、かなり深刻な状態でした。治療開始から1カ月後には月経痛がほぼなくなったものの、倦怠感や疲労感はまだ残っていたため、鉄剤の処方量を増やすとともに、食事についての指導も行いました。

 さらに1カ月が経過した際の診察では、Aさんの体調に以前と比べて明らかな改善が確認できました。「立っていても息切れしていたのが軽くなり、ふらつきも減りました」との話でした。Aさんの夫も協力的で、業務用スーパーで購入した鶏レバーを200グラムずつ小分けにし、しょうゆベースで煮込み、ショウガなどで風味を加えて毎日一緒に食べていたそうです。

 「小さい頃から好きだった味付けなのでおいしく食べられます」と、笑顔で語ってくれたAさん。鉄分補給を習慣化することで、少しずつ体調が改善している姿が印象的でした。家族の協力も大きな力となり、治療の効果を後押ししたようです。

日々の食事から必要な栄養素を摂取するよう心掛けたい(イメージ画像)

日々の食事から必要な栄養素を摂取するよう心掛けたい(イメージ画像)

 ◇薬・サプリに頼らず元気な毎日取り戻そう

 鉄欠乏性貧血の治療には多くの場合、鉄剤が処方されます。しかし、処方された鉄剤をしっかりと服用しても、症状が改善するまでには1〜2カ月以上かかるケースが一般的です。注射による治療を行う病院もありますが、日々の食事から必要な栄養素を摂取することが何よりも大切なのではないでしょうか。

 Aさんのように、毎日200グラムのレバーを摂取することは理想的な方法の一つでしょう。もし効率的に鉄分を摂取したいなら、ヘム鉄が多く含まれているレバーや赤身肉がお薦めです。また、ビタミンCを含むかんきつ類や野菜などの食材と一緒に摂取すれば、鉄分の吸収をさらに高められます。

 一方で、鉄分補給を意識し過ぎてサプリメントや鉄剤を過剰に摂取すると、体に負担をかけてしまう場合もあるため注意が必要です。バランスの取れた食事を心掛けながら、必要に応じて医師に相談してください。

 鉄分不足は自覚しづらいものの、放置すると鉄欠乏性貧血を引き起こし、心身のバランスが崩れやすくなります。ですが、食事や生活習慣を少し見直すだけで体調が改善し、心が軽くなることもあるのです。無理のない範囲で少しずつ鉄分を取り入れ、健康で明るい毎日を目指しましょう。(了)

沢岻美奈子院長

沢岻美奈子院長

沢岻美奈子(たくし・みなこ)
 琉球大学医学部を卒業後、産婦人科医として25年以上の経歴を持つ。2013年1月、神戸市に女性スタッフだけで乳がん検診を行う沢岻美奈子女性医療クリニックを開院。院長として、乳がんにとどまらず、女性特有の病気の早期発見のための検診を数多く手掛ける。女性のヘルスリテラシー向上に向け、インスタグラムやポッドキャスト番組「女性と更年期の話」で、診察室での患者とのリアルなやりとりに基づいたストーリーを伝えている。
 日本産科婦人科学会専門医、女性医学学会認定医、マンモグラフィー読影認定医、乳腺超音波認定医、オーソモレキュラー認定医。漢方茶マイスター。

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