こちら診察室 医療チームの一員! ホスピタル・ファシリティドッグ
小児がん治療の現場ですべきこと
~マサの活躍で実感~ 【第9回】国立成育医療研究センター小児がんセンター血液腫瘍科 塩田曜子
◇多職種連携、少しずつ形に
このように小さく始まった緩和ケアカンファレンスは、14年から小児がんセンター緩和ケアチーム「こどもサポートチーム」(こサポ)に引き継がれました。同時に、緩和ケア認定看護師が活動を開始。16年、緩和ケア専門医が加わった「緩和ケア科」が正式に開設され、次第に体制が充実していきました。

子どもたちからマサに寄せられたたくさんのメッセージ
こサポには、医師、看護師、保育士、チャイルドライフスペシャリスト、臨床心理士、薬剤師、リハビリテーション部門、歯科、栄養士、臨床放射線技師、ソーシャル・ワーカー、在宅支援部門など、たくさんの医療スタッフがいます。似ている部分がありつつも専門性は大きく異なり、それぞれ目標を設定し関わっています。各職種のことを医療者同士がよく理解、信頼し合い、意見を尊重し、業務での重複を受け入れていくには時間を要しましたが、研修やワークショップに積極的に参加して繰り返し意見交換を行い、数々の気付きと小さな成功体験を積み重ね、少しずつ「こサポ」を育てていきました。
「患者と家族に関わるスタッフは、職種を問わず誰もがこサポのメンバーで、チームの一員」と考えて、患者の入院時から主治医と受け持ち看護師を中心に活動しています。
◇マサの活躍がチーム医療の象徴
21年からはファシリティドッグのマサが加わりました。毎週行われるカンファレンスには、ハンドラーを含め10職種を超える40人ほどのスタッフが参加し、子どもたちの目まぐるしく変わる情報をキャッチし、専門性を発揮して迅速に患者家族への支援につなげていくよう努力しています。「きょうは誰がどの順でどう関わると最もいいのか。足りていない支援は何か」―。小さなミーティングが日々、繰り広げられています。たくさんのスタッフが子どもたちと家族を応援しているのです。

点滴治療中の子が描いてくれたマサ。大好きな気持ちが伝わってくる
「あれはダメ。これはここまで」と制限が多い中、とにかくマサに会うことを、子どもたちは楽しみに待っています。無気力のように見えた子も、マサが病室に訪れると起き上がって身を乗り出し、素直に「うれしい」「ワクワクする!」「安心する」という表情になるのです。私たちスタッフも、マサを見掛けただけで、カサカサの渇いた心が途端に潤うような感覚になりますし、病院入り口のマサへの応援メッセージボードを見て励まされています。
こサポ結成から10年がたち、こうして今、マサが多職種と協働して大活躍している姿を見ると、熊谷先生から託された宿題である「小児がん治療の現場ですべきこと」がだいぶできてきたかな、と思っています。
マサは、手術室入り口や歯科治療への付き添いだけでなく、もみじの家(医療型短期入所施設)のほか、産科、補助人工心臓(VAD)の患者のところでも活躍しています。
日本のこども病院に、いち早くファシリティドッグを導入した施設やハンドラーの努力には本当に感謝していますし、団体の活動を応援し続けたいと思います。そして全国で頑張っているファシリティドッグたちがずっと健やかに、と願っています。(了)

塩田曜子・国立成育医療研究センター 小児がんセンター 血液腫瘍科 医長
※医療環境にある子どもや家族が抱える精神的負担を軽減して、主体的に治療に臨めるように支援する専門職
塩田曜子(しおだ・ようこ) 国立成育医療研究センター 小児がんセンター 血液腫瘍科 医長。東京女子医科大学卒業。医師となり、3年目から旧国立小児病院(世田谷区太子堂)血液科で熊谷昌明先生の教えを受けた。02年国立成育医療研究センター開設時から現在まで小児がんの子どもたちの治療に携わっている。小児血液・がん専門医、指導医。こどもサポートチーム代表。
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(2025/03/21 05:00)
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