こちら診察室 医療チームの一員! ホスピタル・ファシリティドッグ

心に寄り添い命を照らす、ファシリティドッグ
~旅立つ直前まで、全力で前向きに生きる原動力に~ 【第8回】患者家族の茶谷美穂子さん

 東京都立小児総合医療センターでファシリティドッグのアイビーと過ごした患者家族の茶谷美穂子です。 ファシリティドッグと触れ合った息子の入院生活をご紹介します。 

 ◇活発だった奏太が

 長男の奏太(そうた)が緊急入院したのは2021年2月、小学5年生の時でした。アメリカンフットボールが起源のスポーツ、フラッグフットボールのチームに所属し、練習に汗を流す日々。28年のロサンゼルスオリンピックに出場するのが夢の一つでした。その他、テニスや水泳、空手にも通っていた努力家が、学校の階段の上り下りさえ先生に付き添ってもらうほどの息苦しさを訴えたのです。

 当時は新型コロナウイルス感染症の第3波期間であり、面会ができない病院が多い中、短時間であっても可能だった都立小児総合医療センター(注)へ向かいました。救急治療室(ER)で酸素吸入を行いながら、CT撮影とPCR検査の結果を待ち、そのまま小児集中治療室(PICU)で処置が必要になりました。真夜中に目が覚めた時、奏太は驚きのあまりフラッグフットボールで練習していた「瞬時に反応して前に出る」という動きで上体を起こしてしまったと話していました。その後、左側の肺の容量が減り、中の空気が完全に無くなる「左完全無気肺」が症状として表れた「Tリンパ芽球性リンパ腫」と診断され、初期治療方針の説明を受けて5日後に小児病棟に移りました。

奏太がアイビーに初めて会った日に撮影

奏太がアイビーに初めて会った日に撮影

 ◇アイビーのもたらした光

 知らない土地で家族と離れて、体に管を刺しては抜いての痛みへの恐怖、2平方メートルのベッドの上で身動きが取れない絶望の中で、自分だけが取り残されたような苦悶(くもん)の表情は、生まれて初めて見せる姿でした。

 その10日後、かわいい友達が病室に遊びに来てくれました。アイビーです。「病院に犬がいる!?」と私たちは顔を見合わせ、柔らかい光がふわりと差し込んできたように感じました。アイビーが脇に寄り添い、ハンドラーの大橋真友子さんとの「さかなorカメ」という当てっこゲームをしていると、「先読みしている!」とアイビーを褒めながら、久しぶりに見せるにこやかな笑顔がありました。アイビーと出会ってから、「病院にも日常があり、楽しいことを見つけられるかもしれない」と、入院生活に希望を持てるようになりました。

 それでも、慣れない治療とステロイドの服薬は続きます。緊急事態宣言が発令され、私たちとの面会時間の1時間は、介助が必要なお風呂の時間を含めると、あっという間に過ぎてしまいます。

 治療が1カ月を過ぎると、副作用で髪の毛が抜け始めました。毎朝、枕に付く髪の毛をきれいにしながら、「容姿が変わっても自分は自分なのだ」と、帽子やウィッグは一切使わずに堂々と過ごしました。友達とワイワイ食べるのが楽しみな奏太でしたが、食欲の増進と水分制限に耐えながら、一人で1日3食をベッドの上で取ります。これまでとは違う制約の多い中で緊急事態宣言が延長になり、さらに一時退院が遠のくと、家に帰った時に食べたいメニューをノートに書きためて、希望をつないでいました。そんな時も、奏太はアイビーをなでながら、大橋さんと料理の話で盛り上がりました。そして、自分が抜けたチームへの応援を忘れず、仲間の話をする時は、いつも優しい表情になっていたように思います。

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