こちら診察室 医療チームの一員! ホスピタル・ファシリティドッグ

子どもたちとのつながり、活動の原動力に 【第6回】ハンドラーの大橋真友子さん

 ファシリティドッグ・ハンドラーの大橋です。ファシリティドッグのアイビーが、東京都立小児総合医療センターに導入されて6年目に入りました。「入院している子どもたちを応援したい」と活動を始めた私でしたが、逆に子どもから力をもらっているということに気付かせてくれたのは、トミくんとの出会いでした。

小学生の頃のトミくん、アイビーと大橋

小学生の頃のトミくん、アイビーと大橋

 ◇治療に向き合う気持ちを支えて

 ファシリティドッグが2019年8月に正式に導入されて間もなく、治療に必要な薬をなかなか飲めずにいると聞いて、トミくんの病室を訪問しました。用意された大量の薬を前にしながら、考え込んでいるトミくんに「アイビーも一緒に飲むからね」と声をかけ、アイビーお気に入りのサプリを飲むところを見てもらいました。その時すぐには薬を飲めなかったトミくんでしたが、後から「僕は一人じゃないんだ。この病院には治療を頑張っている僕たちを応援する犬がいる!」と、勇気が湧いたと言ってくれました。

 初めはおっかなびっくりでアイビーをなでていたトミくんですが、すぐに仲良くなり、骨髄穿刺などの処置の時は必ず呼んでくれるようになりました。頑張る時は必ずアイビーと一緒です。アイビーの訪問を待っている子が多いため、遊ぶ時間を約束することは難しく、「頑張る時にはアイビーを呼べる」というのがちょっと特別な時間になります。

 自分のところに来ない時は、なでたい気持ちをぐっとこらえて「今日はお友達が頑張る日だから」「お友達と遊んでいるのを見るのも好き」と、遠くから見守ってくれることもありました。

 意気投合した同室の友達と一緒に、アイビーの絵を描いたり工作したりして、部屋にはアイビーがいっぱいでした。朝、目が覚めてすぐ、友達との話題はアイビーで始まり、寝る時にも登場。アイビーが病棟にいない時間もアイビーの話題で盛り上がるそんな日常。「家に帰れない」と気持ちが沈んだ時は「今日はアイビーが来るかもしれない」と考えると、少しだけ前向きな気持ちになれたそうです。

 トミくんのように、会っていない時間もファシリティドッグが「前向きな気持ち」を持つ手助けになるという話を聞くと、治療の応援というのが必ずしも「処置の時の応援」だけではなく、「治療に向き合う気持ちを応援する」ことが含まれるのだと強く感じました。

チャリティー展示会で販売するために作った「絵コバッグ」。 トミくん(左)と友達のハルくん

チャリティー展示会で販売するために作った「絵コバッグ」。 トミくん(左)と友達のハルくん

 ◇絵を描くことで自らの心の支えに

 アイビーが入院生活の一部となり、ファシリティドッグに詳しくなってきたトミくんは、シャイン・オン・キッズが多くの方々の寄付で成り立っていることに気付きました。「何かできることはないか」と、いろいろ考えて、布のバッグに絵を描いて友達と一緒に販売し、売上金を寄付してくれることになりました。

 入院中の治療の合間を縫って、バッグに1枚ずつ直接絵を描き、一つとして同じものはありません。特別なアイビーの絵のバッグ、その名も「絵コバッグ」。チャリティー展示会を開くことを目標に、真剣に制作に取り組み、完成したのは全部で20枚!  展示会にはたくさんの人が訪問し、「みんながアイビーを応援してくれるといいな」と思いながら描いたバッグたちはすぐに完売したのです。

 入院中の彼らがやり遂げたことは、ただその時に寄付金を集めるためではなく、「ファシリティドッグを、入院して頑張っているもっとたくさんの友達に届けたい」という未来へつながる気持ちにあふれていました。私は治療中の子どもたちを応援する立場で活動していたのに、いつの間にか治療中のトミくんに応援してもらっていたのです。トミくんとアイビーが離れている今も、力をもらい続けていることを感じています。

 その後もトミくんは絵を描き続け、10歳の誕生日に「1年間毎日ファシリティドッグの絵を描く」と心に決め、治療のために別の病院に入院している間も、体調が悪くて起き上がれない日も、酸素マスクを付けた状態でも、1年間という目標を大幅に超えてファシリティドッグの絵を描き続けてくれました。直接会うことはできなくても、ファシリティドッグと心がつながっていて、トミくんの心の支えになっていたのだと思います。

病棟に飾られている等身大のアイビー。14歳になったトミくんの作品

病棟に飾られている等身大のアイビー。14歳になったトミくんの作品

 ◇みんなの思いと実績を積み上げ、2チーム目導入へ

 トミくんは今、14歳。闘病を続けながらも、ファシリティドッグへの思いは途切れることなく、次々に作品が誕生しています。トミくんの描くファシリティドッグは皆、目が生き生きとしていて、犬に寄せる愛情や描く楽しさが伝わってくるようです。 

 絵を描くことでファシリティドッグの活動を応援しているトミくんと、その応援を力にしてさらに頑張ろうと思えるアイビーと私たち。そんなトミくんの活動をきっかけに、闘病経験を持つ子どもたちが病気と闘う仲間たちを勇気づけたい、とさまざまな取り組みを始めています。イベントブースに出展して自分たちでデザインしたTシャツを販売したり、国際的な学会のセミナーでファシリティドッグの素晴らしさと必要性を発表したりなど、今後の広がりにも期待を感じています。

 これまで同センターでは、「からだ病棟」というエリアに長期入院している子どもたちを、私とアイビーのチームで応援してきました。こうした中、ファシリティドッグとの関わりで子どもたちに起きるさまざまな変化が認められ、もう1チーム、「こころ病棟」への導入を目指すことになりました。病院スタッフの皆さんがアイビーと私が活動しやすい環境を整えてくださったこと、トミくんをはじめ、多くの子どもたちがアイビーとの時間を振り返って発信してくれていることなどの積み重ねが「今」に導いてくれたと感じています。

 私たちは主に院内で活動しているため、退院後の患者さんと触れ合う機会はほとんどありません。でも時々、メールやSNSのコメントを通して、退院後の患者さんからアイビーへの思いを読ませていただくと、会えなくなってもアイビーとみんながつながっているのだと感じることがあります。そして、そのことに私自身が力をもらい続けています。トミくんとの出会いは、「犬だからこそ心の中でも寄り添える」と気付くきっかけになり、これからもずっと子どもたちの心に寄り添える活動を続けていきたいと、私とアイビーの原動力になっています。(了)

都立小児総合医療センターが「こころ病棟」への導入に向けて挑戦中のクラウドファンディング https://readyfor.jp/projects/TMCMC-FD2025

大橋真友子さん

大橋真友子さん

 大橋真友子(おおはし・まゆこ) ファシリティドッグ・ハンドラー。認定NPO法人シャイン・オン・キッズ所属。東京都立小児総合医療センター勤務。01年国立相模原病院付属看護学校卒業、同年国立療養所村山病院へ入職。04年国立成育医療研究センターへ異動。19年シャイン・オン・キッズのファシリティドッグ・ハンドラーに就任、アイビーとともに東京都立小児総合医療センターで活動開始


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