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白内障手術どこで受ける?
~医療機関選ぶポイント~ 【第9回】
前回までの連載で、白内障手術を受ける時期や眼内レンズ選び、屈折精度などについて話を進めてきました。では、こうした事柄をしっかりと相談でき、実践できる医療機関はどうやって探せばよいのでしょうか。

信頼できる医療機関を選びたい(イメージ画像)
◇確かな基準なく
皆さんは手術を受ける医療機関をどのように決めますか? いつも通っているクリニックや、そのクリニックから紹介された病院にする方が多いのではないでしょうか。友達に薦められた所や、書店に置いてある医療機関ランキングあるいはインターネットの情報を参考に自分で調べた所に行く方もいるでしょう。そして手術を実際に受けてみると、正解だったと思う方もいれば、そうではなかった方もいるのです。
友達の感想というものは、手術結果が自分の思い通りだったか否かに左右され、かなり主観的です。平たく言えば、お薦めのレストランを教えるといった感覚かもしれません。
医療機関ランキング系の書籍には、手術件数を基にしているものがあります。ただ、年間2000件の手術をしているとしても、医師が複数在籍していれば、皆さんが手術を受ける医師がどれくらいの経験を持っているのか知る由もありません。
名医を紹介している書籍もありますが、その基準は曖昧です。白内障に関する論文の多さでしょうか? 病院自体あるいは医師の肩書の権威や、医師同士が評価し合うBest Doctorsのようなものを参考にしているのかもしれません。そこには広告も混在しているので、情報としては実に不確かです。
皆さんが読んでいるこの記事を含め、白内障手術に関する情報はたくさんあり、調べれば調べるほど情報の多さに困惑してしまうこともあるでしょう。そこで今回は、論文のデータも参考にしながら、私なりの医療機関選びのポイントを記します。
◇安全性と精度追求がカギ
白内障手術において重要なのは、安全性と手術後の見え方が少なくとも自分の想像以上になることだと考えています。
安全性に関して興味深い報告があります。1年間の執刀件数によって合併症の発生頻度、手術後の視力に違いが出るかを調査したものです。それによると、年間500~1000件程度の手術を担当している医師の安全性が最も高くなっています。少な過ぎると経験不足による不安定さが、多過ぎると時間的制約による焦りのようなものが影響するのかもしれません。
視力については執刀数との相関関係はないようです。だとすれば、医師個人あるいは医療機関の屈折精度へのこだわりがなければ、良い結果につながらないと解釈できそうです。
これらの結果から、質の高い白内障手術を受けるには次の4条件を満たす施設に行くのが望ましいと考えられます。

Alcon社のNGENUITY3DシステムとCenturion(左)、UNITY VCS(右)
①定評ある機器の使用
手術には主として超音波装置と顕微鏡が使用されます。前者において圧倒的トップシェアがAlcon社のCenturionです。その他にはJohnson & Johnson社のVERITAS、BAUSCH+LOMB社のStellarisなどがあります。少なくとも現在は、これら3機種のいずれかが必須です。今夏にはAlcon社からUNITY VCSが、ZEISS社からQUATERA700が発売予定で、安全性と侵襲性については現世代からの大幅なアップデートが行われるでしょう。
安全性と侵襲性をさらに高めるものとしてフェムトセカンドレーザーを使う装置があります。白内障手術の重要な工程を、リアルタイムの断層写真を用いながらコンピューター制御のレーザーで行っていくものです。この装置を使用しても保険診療では手術代に反映できないため、日本国内では導入施設は少ないものの、超音波との一体型が開発されれば一気に普及が進むかもしれません。

ZEISS社のARTEVO 800 (左)、QUATERA700(右)
手術用顕微鏡はZEISS社のARTEVOやLEICA社のProveo8が現時点では他を圧倒しています。ZEISS社は以前から優れた製品を多く開発しており、Lumera系もまだ現役で活躍しそうです。
さらに最近では、3Dデジタル顕微鏡がAlcon社とZEISS社から発売されています。今までのように顕微鏡をのぞくのではなく、大画面で高精細な3D画像を見ながら手術が行えます。大きな技術革新であり、今後の手術はこれらの技術を基に進歩していくと考えています。
②年間執刀数500件以上
これはなかなか難しい問題です。論文では500件と記載がありますが、感覚的には400件でも変わらない気がします。また500件以上執刀していても、医師の合併症に対する考え方によって結果は変わってくるのではないでしょうか。
複数の医師が手術をしている施設では、目の前にいる担当医に「年間の手術件数は?」と聞くのは皆さんにとってハードルが高いとみられます。他の項目と併せて総合的に判断していくのがよいかもしれません。
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(2025/05/28 05:00)