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マスク着用で迎える2度目の夏と熱中症
~口周り40度近く上昇、脱水症の危険~ 第2回

 これから迎える暑い夏、昨年と同様にマスク着用が必要な2度目の夏になりそうです。そこで、マスク装着による熱中症発生への影響も考える必要があります。ちなみに、“マスク熱中症”という病名は医学的には存在しません。正しくは、マスク着用により熱中症の発症が助長された可能性がある、と理解してください。

 ◇昨年は救急搬送者の3割がマスク装着

 私が神奈川県の某市で調査した結果を示します。某市では2020年5~8月の間に、熱中症による病院への救急搬送が1149件ありました。そのうち、救急隊が現場に到着した際の確認で「傷病者がマスクを装着したままであった」、あるいは「直前まで装着していて傷病者のそばにマスクがあった」という事例が331件、全体の28.8%もありました。参考までに2019年まででは、マスク装着あるいはそれを疑えるような傷病者は、ほぼゼロであったとのことでした。

 以上の状況を参考に、マスク装着による熱中症対策への影響を考えてみましょう。マスク装着により、本当に熱中症になるか否かの医学的研究はありません。しかし、マスク装着により口腔(こうくう)周囲、顔面の体温が上昇することを、昨年私はさまざまなメディアにおける実験で証明してきました。

 例えば、成人が気温30度の炎天下でマスクを装着していると5分から10分ほどで口腔周囲の温度が35度近くまで上昇し、歩行などの軽い運動を加えると40度近くまで上昇することを確認しました。

 その一方、全身の体温が上昇することはほとんどありませんでした。マスク装着により、局所の温度は上昇するものの、成人においては全身の体温を上昇させるようなことはなく、直接的に熱中症の原因とはなり得ないことが分かりました。

 ◇脱水症の危険

 しかし、問題はマスク装着による体内の水分への影響です。熱中症の原因は外部要因としての暑さや蒸し暑さ(暑熱環境)、身体の内部要因としての脱水症の二つです。私たちは、マスクを装着することでマスクを外さなくてはできない飲水行動をちゅうちょしてしまいます。

 また、自分の吐く息(呼気)がマスクにより体外に排出できずに口腔内にこもり、口腔内が湿潤となり、喉の渇きを感じにくくなります。この結果、体内の水分が減っているのにもかかわらず水分補給が滞り、脱水症を起こす危険性が増すのです(図1)。

 炎天下でマスクを装着しての外出は、熱中症発生のリスクを高める可能性が推察されます。

 ここまでの話をまとめると、成人ではマスク装着による体温上昇はない。しかし、マスク装着により体液量(体内の水分)の減少が起きていることに気付きにくく、飲水行動もちゅうちょしてしまうために脱水症を起こす危険があると言えます。

 外出自粛により水分を蓄える役割を担っている筋肉量の減少も伴っており、外出時にマスクを装着して水分補給を怠ってしまうと脱水症になり、そこに暑さが加わると熱中症を起こしやすくなるリスクが想定されます。

 その結果が、冒頭で紹介しました昨年度のマスクを装着したままで熱中症になった傷病者が増えたことにつながった可能性があると考えられます。

 今年は、暑さもさらに増し、マスク装着および外出自粛も継続される可能性があり、さらなるマスク装着に伴う熱中症搬送者が増える可能性があります。その対策に関しては、最後にまとめてお話しいたします。

 ◇子どもの熱中症

 その前に、子どものマスク装着による熱中症の危険性についてお話したいと思います。成人と違い、子どもはマスク装着による影響が体温変化に出やすいと考えられます。

 その理由は、子どもの呼吸様式の特徴にあります。成人では胸郭が十分に発達しているので1回の換気量を多く稼げ、1分間あたりに10~15回程度の呼吸で生命を維持できます。また、汗腺もよく発達しているので、体温コントロールを呼吸に頼る必要がありません。

 一方、子どもは胸郭が未発達で1回の換気量が少なく、それを補うために1分間あたりに30~40回程度の呼吸回数が必要になります。さらには、汗腺も未発達のために、体温コントロールを呼吸に頼る割合が多くなります。

 つまり、子どもにとっては、マスクを着用することで呼吸に負荷がかかり、体温コントロールも十分にできなくなるのです(図2)。呼気から奪われる水分の割合も成人よりも多くなります。その結果として、子どもは、暑い季節においては、マスクを装着することで体温が上昇して体内の水分も奪われ、十分な水分補給をしていないと脱水症、場合によっては熱中症にさえなることがあるのです。子どもは、成人よりもさらにマスク装着が熱中症発生のリスクを高めることになります(図2)。

 ◇暑熱回避と脱水症の予防

 以上の状況から、最後に、マスク装着時における熱中症対策をまとめたいと思います。

 まず、成人でも子どもでも、熱中症対策の要(かなめ)は暑熱環境の回避と脱水症予防で同じです。

 それでは、マスクや水分補給はどのように対策すれば良いでしょうか。

 初めに、成人は暑い環境でマスクを装着する必要がある場合には、こまめな水分補給と可能な限りマスクを外せる時間をつくることです。幸いにも水分補給をする際にはマスクを外さざるを得ません。

 従って、水分補給を意識することが大切になります。

 ここで注意すべきことは、喉の渇きを目安に水分補給をしていては水分補給の機会を逸してしまう恐れがあることです。特に、高齢になればなるほど、その危険性が高まります。適切な方法は、計画的な水分補給、つまり時間を決めて小まめに水分補給の機会をつくることです。

 暑い中、外出する場合には、あらかじめ20分おき、あるいは30分おきに給水タイムを決めてから出掛けるようにしましょう。摂取する飲料は水やお茶で構いません。量は一度に多く取ると排尿が促されてしまうので、大汗をかいていなければコップ一杯(180ml)程度で十分です。

写真はイメージです

写真はイメージです

 ◇子どもは自由に水分摂取を

 私は、この一連の行動が取りやすいように3トルという合言葉を提唱しています。外出時には、人と距離をトル、マスクをトル、水分をトルの3トルを定期的に実施しましょう。

 次に、2歳未満の乳幼児にはマスクをさせないこと。それより上の子には、マスクを外せる環境では可能な限り、外させてあげることです。

 特に、運動中はエネルギー代謝や呼吸回数が増えるので絶対に外させるようにしてください。そして、自由に水分補給ができる環境整備が必要です。休み時間だけでなく、できれば授業中も水分補給ができると良いでしょう。子どもたちへの指導例として、“喉が渇いたときには自由に水分摂取しましょう。トイレが近くなったり、おなかが緩くなったりしたときは取りすぎですので注意しましょう”としてください。

 保護者、指導者は摂取させる飲料の種類を決めてください。甘過ぎる、塩分の多い物をむやみに取らせないようにしましょう。また、子どもたちが校内で自由に水分摂取できるように、給水器やウオーターサーバーを多く設置することが効果的です。

 マスク着用で迎える2度目の夏。熱中症による被害を少しでも減らせるように、正しい知識を持ち、できる限りの対策を取って備えましょう。(了)

谷口英喜医師

谷口英喜医師

 谷口英喜(たにぐち・ひでき)
 麻酔科医師 医学博士
 済生会横浜市東部病院 患者支援センター長兼栄養部部長。1991年、福島県立医科大学医学部を卒業。専門は麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養、周術期体液・栄養管理など。麻酔科認定指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医、東京医療保健大学大学院客員教授、「かくれ脱水」委員会副委員長を併任。脱水症・熱中症・周術期管理の専門家として、テレビ、ラジオに多数出演。年に1冊のペースで、水電解質、経口補療法に関する著書を出版。2021年6月に「はじめてとりくむ水・電解質の管理 上下2巻」を発売。

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