こちら診察室 熱中症と対策

後遺症を残さない熱中症の応急処置と治療
~重症化で高次機能障害や死亡も~ 第5回

 これまでは熱中症の予防について解説してきましたが、今回は熱中症への対応について解説します。熱中症の予防と治療は明確に分けるようにしてください。

 熱中症患者への対応、および治療は正確さとスピードが重要です。熱中症は重症化すると、多臓器不全を起こして死に至る病気でもあります。さらには、あまり報道されていないのですが、熱中症で後遺症を患い、一生つらい思いをしているケースが多くあります。

 その後遺症とは脳を中心とした中枢神経障害です。いわゆる高次機能障害で、記憶力低下や集中力低下、睡眠障害などがずっと残ります。熱中症では、脳血流が不足して、酸素や栄養素が届かなくなった状態に高体温が加わり、中枢神経障害が起こります。

 これを防ぐには、発症の早期に適切な対応を迅速に実施するしか手段がありません。病院に搬送された時点では手遅れの場合が多いのです。脳神経は、一度障害を受けたら元には戻りません。そんな不幸な状況に陥る熱中症の被害者を減らすべく、適切な熱中症対策を現場で実施していただきたく思います。

 ここで、いくつかの誤った熱中症対応、治療を紹介しましょう。

 例1)熱中症になったら「塩飴、塩のタブレット」を取らせる

 米国の労働者に対する熱中症対応の中では「塩のタブレットは、吸収されて全身に行き渡るまでに時間がかかるので推奨しない」と明記されています。この理由は、塩分が吸収される場所が小腸であるためです。口腔(こうくう)内でなめていても、飲み込んで胃まで入っても、そこから先に進まないと効果が出ないのです。効果を出すには、一緒に大量の水を摂取することです。塩を取らせただけでは、熱中症は改善しませんのでご注意願います。

 例2)熱中症で倒れた人に頭から水を掛ける

 これは、とても危険な行為です。熱中症で倒れるということは、中等度から重度の熱中症と診断できます。その状態では意識がもうろうとしていて、頭に掛けた水が誤って口腔内に入ったら、それが肺に入り誤嚥(ごえん)性肺炎や窒息を起こす危険性があります。殺人的な行為と言っても過言ではないでしょう。さらには、頭やおでこを冷やしても冷却効果は高くはありません。頭から水を掛けるよりも、首や脇の下にある太い血管を冷やすほうが、冷却効果が高く安全です。

 例3)熱中症になったら牛乳を飲ませる

 熱中症の予防に牛乳は、とても優れている飲料です。牛乳を摂取することで血中のアルブミンを増加させ血流量を増加させます。また、牛乳には筋肉の合成に必要なアミノ酸も含まれているので、水分のリザーバーを作るために役立ちます。

 しかし、牛乳に含まれているたんぱく質、アミノ酸は熱産生能が高い栄養素です。全身麻酔中の体温低下を防ぐためにアミノ酸輸液をするくらい、体温低下防止の効果が期待できる栄養素です。昭和の時代には、お風呂上がりに冷たい牛乳を飲む姿が格好良く映し出されていました。この理由は湯冷まし効果ではなくて、湯冷めしないようにアミノ酸を取って体温を維持することにあったのです。とにもかくにも、熱中症になったら飲んではいけない飲料としてアルコールと共に牛乳を覚えておいてください(下図)。

 熱中症の応急処置は予防で行ってきたように、暑熱回避と脱水症の改善を図ることです。そして、重症度の判定を実施して、中等度以上の熱中症では体温冷却が必要になってきます。水が自分で飲めない場合には、救急車の要請が必要になってきます。

 2015年に日本救急医学会から熱中症診療ガイドラインが出されました(下図)。従来、熱失神・熱けいれんと呼ばれていたものが軽度(I度)の熱中症、熱疲労と呼ばれていたものが中等度(II度)の熱中症、熱射病と呼ばれていたものが重度(III度)の熱中症に相当します。熱中症診療ガイドラインで示された重症度分類を用いることで、重症度により対応が明確に分かるようになりました。

 熱中症の傷病者に対する応急処置を示します。

 1)暑熱環境の回避

 まずは、傷病者を暑熱環境から涼しい場所に移動させ、着衣を緩めて休ませます。

 2)脱水症の改善

 飲水が可能であれば、第一選択飲料は経口補水液を(次回、詳細を説明)、手元に無ければスポーツドリンクのような塩分入りの飲料を摂取させます。

 3)身体の冷却

  体温を下げるには、太い血管を外から冷やすことが効果的です。首の両脇=左右の頸(けい)動脈=、脇の下=左右の腋窩(えきか)動脈=、足の付け根=左右の大腿(だいたい)動脈=を冷やします。冷やす方法は、冷えたペットボトルやタオルでくるんだ氷などが良いでしょう。さらにエアコンや扇風機で全身を冷却すると良いでしょう。

 続いて、その後の判断についてです。

 I度の熱中症であれば、症状が改善すれば十分な休息と水分・食事の摂取を行います。

 その日は、終日休んだ方が良いでしょう。症状が改善しない場合は、病院への搬送を考えましょう。

 II度の熱中症であれば、症状が改善すれば十分な休息と水分・食事の摂取を行います。

 その日は、終日休んだ方が良いでしょう。心臓・腎臓病などの持病がある方は、症状が改善しても、かかりつけ医を受診してください。合併症、後遺症のチェックをしてもらいます。症状が改善しない場合、具体的には意識がもうろうとしてきて飲水ができない場合には、病院への搬送を急ぎましょう(上図)。

熱中症への対応法が記載された冊子

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 III度の熱中症であれば、迷わず救急車を呼んで下さい。

 著者が監修した熱中症への対応法が記載された冊子が無料でダウンロードできますのでご活用下さい。

 ワンポイントアドバイス

 病院搬送を考えるポイントは、新品のペットボトル飲料を渡して判断してください。

 新品のペットボトル飲料を傷病者に渡して、自分の力でフタを開けて、しっかり口からこぼさず飲める状態であれば、すぐに病院搬送を考えなくても大丈夫です(注;もともと握力の弱い小児や高齢者ではフタを緩めてから渡してください)。

 6月25日に著者が今回の連載に関連した書籍を出版しました。連載で水分管理に興味を持たれた方は是非ともお読み下さい。「 はじめてとりくむ水・電解質の管理 基礎編 水分管理の基礎と経口補水療法/医歯薬出版株式会社 」

 熱中症の予後を左右するのは、現場での重症度判定と初期対応です。次回は、初期対応の有効策である経口補水療法について解説します。(了)


谷口英喜医師

谷口英喜医師

 谷口英喜(たにぐち・ひでき)

 麻酔科医師 医学博士

 済生会横浜市東部病院 患者支援センター長兼栄養部部長。1991年、福島県立医科大学医学部を卒業。専門は麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養、周術期体液・栄養管理など。麻酔科認定指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医、東京医療保健大学大学院客員教授、「かくれ脱水」委員会副委員長を併任。脱水症・熱中症・周術期管理の専門家として、テレビ、ラジオに多数出演。年に1冊のペースで、水電解質、経口補療法に関する著書を出版。2021年6月に「はじめてとりくむ水・電解質の管理 上下2巻」を発売。

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