こちら診察室 アレルギー性鼻炎の治療最前線

根治目指せる舌下免疫療法
~生物製剤や外科的治療法も~ (後藤穣・日本医科大学耳鼻咽喉科学准教授)【第3回】

 原因物質を少量から投与するアレルゲン免疫療法は、アレルギー性鼻炎などのⅠ型アレルギー疾患に対する根治的治療法だ。数年間治療を継続すると、終了後も効果が持続し、長期寛解・治癒を誘導できると言われている。新規の原因物質に対するアレルギー反応や気管支ぜんそくなど、他のアレルギー疾患の発症を予防する効果も認められている。従来の皮下注射法はアナフィラキシーショックなど、副作用の危険性があり、十分に普及してこなかったが、2014年以降、舌下免疫療法が安全で簡便に日本国内でも使用できるようになった。アレルゲン免疫療法は、これまでアレルギー治療の選択肢として軽視されてきたが、舌下免疫療法が重要な治療オプションの一つになってきた。

マスクなどの花粉症対策商品

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 薬物療法は対症療法であり、治療継続中には効果があっても、やめれば、またすぐ症状が発現する。手術療法は治療効果が長く続くことは薬物療法と異なるが、アレルギー病態に何らかの影響を与えて効果を出しているわけではないので対症療法の位置付けになる。アレルゲン免疫療法のみが、長期寛解や治癒を誘導できる唯一の根治療法として位置付けられている。

 鼻アレルギー診療ガイドライン2020年版(改訂第9版)では、アレルゲン免疫療法について以下のように記述している。「アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎の治療であり、一部の気管支ぜんそくにも効果が認められている。治療には専門的な知識と技能が必要であり、エビデンスはないが3~5年の治療が推奨されている。アレルギー性結膜炎はアレルギー性鼻炎と病態が極めて類似しており、結膜炎に対しても有効性が確かめられている」。アレルゲン免疫療法は、14年のスギ舌下免疫療法の実用化によって身近な治療法の一つになってきた。唯一の根治的治療法であること、アレルギーの自然経過(natural course)を修飾することなど、対症療法では得られない有益な効果が期待できる。皮下から舌下に転換されたことにより安全性が向上したことは疑いの余地がない。

 舌下免疫療法は、舌下錠の登場により年齢制限がなく、子どもから成人まで治療可能になった。スギとダニのアレルギー性鼻炎に適用がある。スギ舌下錠は、治療終了後にも効果が持続することが国内の治験で確かめられている。スギは花粉飛散の季節には治療開始ができないが、ダニは1年を通じて治療を開始できる。適応症例を慎重に評価して治療を開始する必要がある。実際の臨床では既往歴や合併症などの医学的な条件よりも、数年間、毎日、自己管理で舌下錠を投与できるかどうかが、この治療を受けられるかどうかの最初のハードルだ。舌下錠による副反応は、開始後1カ月以内がほとんどで、軽微な局所反応が大部分だ。皮下免疫療法に比べて全身性副反応は極めて少ない。

 抗IgE抗体療法は、気管支ぜんそくや特発性慢性じんましんには以前から使用可能だったが、19年に重症・最重症のスギ花粉症に対しても使用できるようになった。最適使用推進ガイドラインに従って、複数の条件を満たすと担当医が判断したときに使用できる。抗IgE抗体が遊離IgE抗体と結合することによって、結果的にマスト細胞の活性化が抑制され、アレルギー反応をコントロールすることが可能だ。血清総IgE抗体値と体重によって投与量を決定し、2週間ごと、または4週間ごとに使用する。患者の希望だけで投与できるものではないので注意が必要だ。諸外国では、季節性アレルギー性鼻炎に対して使用できる国は無いので、わが国の重症スギ花粉症に特化した治療法と言うことができる。

スギ林から放出される花粉=画面中央付近の白い部分=

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 アレルギー性鼻炎に対する手術は、古典的な下鼻甲介手術(広範下甲介粘膜切除術)がアレルギー反応の場である下鼻甲介粘膜を大きく切除する方法だった。近年では、身体への負担を軽減した方法に進化している。これには内視鏡手術機器の進歩が寄与している。後鼻神経切断術は、翼口蓋孔から鼻腔(びくう)内へ伸びてくる後鼻神経を選択的に切断する。外来で実施可能なものにはレーザー手術がある。鼻粘膜表層をレーザーで変性させることによってアレルギー反応を起こりにくくするものだ。効果は数カ月から数年持続する。

 治療に必要な時間だけではなく、費用面も総合的に考慮して、個々の患者の重症度に応じた治療方針を検討する必要がある。薬物療法(抗IgE抗体療法を含む)や手術療法は対症療法であり、短期間で症状を和らげたい場合には対症療法を選ぶ。アレルゲン免疫療法は根治的治療法だが、即効性はないので、じっくりと治療可能な時期に開始する必要がある。

 手術療法は入院で行う場合が多く、身体への負担が軽くなったとはいえ、麻酔や入院が必要になる場合もあり、軽度とはいえ、合併症も生じる。一方、アレルゲン免疫療法は薬物療法並みのコストで治療できるが、3~5年と長期間継続した治療が必要になる。短期間で効果が表れるものではないので、当初は薬物療法と併用してアレルゲン免疫療法を開始する。重症で難治性のアレルギー性鼻炎になると、薬物療法、手術療法、アレルゲン免疫療法の複数を組み合わせて行うべき症例も出てくる。(了)


後藤穣・日本医科大学耳鼻咽喉科学准教授

後藤穣・日本医科大学耳鼻咽喉科学准教授

【後藤 穣(ごとう・みのる)】
現職 
日本医科大学耳鼻咽喉科学 准教授
日本耳鼻咽喉科学会専門医、専門研修指導医
日本アレルギー学会 常務理事、指導医・専門医
経歴    
1991年日本医科大学医学部卒業
2004年日本医科大学耳鼻咽喉科学 講師
2011年日本医科大学耳鼻咽喉科学 准教授
2014年日本医科大学多摩永山病院 病院教授
2018年日本医科大学付属病院 本院復帰

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