ダイバーシティ(多様性) 障害を持っても華やかに

聴覚障害者にとって病院通いは想像以上に大変!
~受付、医師との会話、入院~ (ソニー出身、デフサポ代表取締役 牧野友香子)【第7回】

 ◇耳が聞こえない人にとって通院はハードルが高い

 実は、耳が聞こえない人にとって通院はとてもハードルが高いものです。大学病院になれば、もっとハードルが上がります。私自身、子どもの通院でかなり何度も、大学病院に行っていますが、何度行っても、どこも結構大変だな・・・と痛感しています。どういう点で困るのか、ご紹介していきたいと思います。

病室の牧野さん

病室の牧野さん

 ◇受付での呼び出し/説明

 番号が表示されたりする所はいいのですが、名前や番号を口頭や放送で呼ぶ所もまだまだあります。

 もちろん最初の受け付けの段階で、耳が聞こえないことをしっかり伝えるのですが、病院の事務の方もバタバタしているので忘れられてしまうことが多々あります。

 私の防衛策としては、自分の前に受け付けをした人と、自分の後に受け付けをした人をチェックしていて、その人たちが呼ばれた後も全然呼ばれない、遅すぎる…というときには、もう一度受付に聞きに行きます。

 また、番号表示があっても、いったん呼ばれて入って、また「もう1回後で呼ぶね〜」というようなときは、口頭で呼ばれることが多く、そういったときに呼ばれても気付かないことがよくあります。なので、なるべく聞こえないことを再度伝えるようにしています。

 チラチラ周りを見て「いつ呼ばれるの?」「今呼ばれた?」「あれ、ちがうか?」と、緊張しながら過ごしているので、待合室で、ゆっくり本を読みながら待つ・・・ということができません。

 なので、病院から帰ると、どっと疲れが押し寄せることが多いんです。

 ◇医師の診察での会話

 これはまた難しいところなのですが、私の場合、マスクをされてしまうと何を言っているのかが全然分かりません。ただ、私は口を見て普通のスピードで話してもらった方が分かりやすいんですね。

 なので(コロナ前は)問題なければマスクを外していただいたりしていたのですが、聞こえないことをその時に伝えると、医師によっては配慮だと思うのですが、すごく小さい子に話し掛けるように「あ・の・ね。お・く・す・り・を・だ・す。だ・か・ら、く・す・り・や・さ・ん・に・よ・っ・て・ね!わ・か・っ・た?」というふうに言ってきたりすることや、言葉を簡単な言葉に言い換えてゆ~っくり話をされることがあります。また、普通の人に伝えるよりも伝えてもらえる情報量が一気に少なくなってしまったりすることもあります。

 配慮には大変感謝していることなのですが、私個人としては情報はちゃんと欲しいと思っています。

 特に子どものことは、自分のこと以上に詳細までしっかり知りたいし、話の内容は理解できるので、かみ砕いて説明をされると「いやいや小さい子じゃないよ…」と、もどかしく思うことがあります。その都度、「普通のスピードで話していただいて大丈夫です。分からなければ聞き返させてください」と伝えています。その後は、さらっと対応してくださいます。

多くの医師が夫の方を向いて話をする

多くの医師が夫の方を向いて話をする

 ◇当事者のはずなのに、相手にされていない!

 私には聞こえる夫がいます。私自身の妊娠中の話を聞くときや、夫婦で子どもの手術・病気の話を聞くときなど、夫も当事者なのでできる限り一緒に話を聞いていました。そんなときに多くの医師が夫の方を向いて話をするのです。

 私も結婚するまで認識していなかったのですが、1対1ではなく、聞こえる人と行くだけで力関係が出てしまうんだなと体感することが増えました。

 例えば、妊娠中の話で私の体のことを話しているのに、私にではなく、夫に向かって話をされることが結構あったんです。ほぼ9割、夫に向けて話をしていて、たま~の1割で私をチラッと見たりということが多々ありました。

 分かるんです。

 きっと聞こえない私に伝わっているか不安なこともあって、差別するつもりはなく、無意識に話が確実に伝わる人に向けて会話をしてしまうんだろうなあと、頭では納得できるものの、いざ当事者で自分がされると少し悲しくなりました。加えて、子どもの手術や病気の話でも同じだったんです。

 例えば、先生が夫に向けて話しているのを聞いて、その中で疑問に思った点や今後の流れなどを私の方から質問をすることもあったんですね。その時の会話の流れもしっかり分かっていて、ちゃんと私から口頭で質問をしても、返事は夫の顔を見てする・・・という場面だと、「話してるの私なのに…。私にも向き合って〜!聞いて〜!」と思ってしまうこともありました。

 かといって、二人の子どもの話なのに、当事者の夫を連れて行かないというのも違う…でも夫に通訳をしてほしいわけでもなく、通訳自体がなくても先生の言うことは分かっているので、「普通に会話したいだけなのに…」と、もどかしい思いをしたことが多いです。

 もし、これを見てくださっている医療関係者の方がいらしたら、通訳が入ってるとしても、できるかぎり「当事者」の顔を見て、当事者に直接お話をしていただけると、うれしいなと思っています。

病室=写真はイメージです

病室=写真はイメージです

 ◇入院して初めて実感、音での情報が分からない!

 こちらは、実際に自分が経験するまで気付いていなかったのですが、入院中って意外とやることがいっぱいあります。ただ、それを音でお知らせするものが多かったり、声掛けも音での会話が多かったりするので、気付かない場面がたくさんありました。

 例えば、朝晩に「体温を測って〜」と言われるのですが、体温計のピピッ!の音が聞こえないので、いつ終わるのかな?いつ終わるのかな?と思いながら見ていたり、パルスオキシメータという酸素を測る機械をテープで貼っているのですが、子どもが動きまくるのでよく取れるんです。それが取れると音が鳴るようなのですが、その音が聞こえないので看護師さんが来て、「あ!取れてたのか」とびっくりしたり・・・

 しかも入院中って、カーテンを閉めるじゃないですか?でも、そのカーテンの向こう側の音って皆さんは、なんとなく聞こえていると思います。「きょう手術したのかな?」とか、夜中泣いていると「痛がって寝られなかったのかな?」など。

 長期間入院していると、背景がいろいろな会話から分かってくると思うのですが、私の場合は、そういった情報が全くないのです。こんなこともありました。入院中にお見舞いに来た私の母から「あの子すごいなあ〜中国語も日本語もしゃべってるね!」と言われて、そこで初めて「ええ!あの子中国語も話しているの!?」と知りました。私は1カ月一緒に入院していて同じ部屋でも知らなかったのに、母は2時間来ただけで「めっちゃいろんなことに気付くんだなあ〜」と情報の格差を改めて体験しました。

 ◇当事者ですら経験して初めて知った

 「人は経験していないことには想像は働かない」と以前話した通りですが、出産するまで入院したこともない私は、聴覚障害のある自分自身が病院でこんなに困るなんて思いもしませんでした。

 生まれつき聴覚障害があっても、そういったことを体験するまでは想像が及ばなかったのですから、聴覚障害がない人たちには「より丁寧に」伝えないと、そもそも知ってもらえないですし、分かってもらえないことが多いでしょう。だからこそ、自分自身の経験を伝えて、いろいろな人に知っていただけたらな、と思います。(了)

 ▼牧野友香子(まきのゆかこ)さん略歴

 株式会社デフサポ 代表取締役

 生まれつき重度の聴覚障害があり、読唇術で相手の言うことを理解する。

 幼少期にすごく良いことばの先生に出会えたことでことばを獲得し、幼稚園から中学まで一般校に通い、聴者とともに育つ。

 大阪府立天王寺高等学校から神戸大学に進学し、一般採用でソニー株式会社に入社。

 人事で7年間勤務。主に労務を担当し、並行してダイバーシティの新卒採用にも携わる。

 第1子が50万人に1人の難病かつ障害児だったことをきっかけに、療育や将来の選択肢の少なさを改めて実感し、2017年にデフサポを立ち上げ、2018年3月にソニーを退職し、聴覚障害児の支援に専念。デフサポでは聴覚障害児の親への情報提供、ことばの教育、就労支援を中心に実施。

 2020年より多くの人に難聴に興味を持ってもらいたい!とYouTubeでデフサポちゃんねるをスタートする。

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