ダイバーシティ(多様性) 障害を持っても華やかに

困っていることと、技術の発展について
~病院やホテルは電話必須!~ (ソニー出身、デフサポ代表取締役 牧野友香子)【第14回(最終回)】

 私自身耳が聞こえないため、電話ができません。今の時代、電話が無くても、なんとかなりそうではありますが、それでも電話ができなくて困る場面が実は多々あります。

電話する夫

 ◇コロナワクチンの個人病院予約は電話必須!

 私が住む横浜市では、ようやく基礎疾患が無い人に対して、新型コロナウイルスのワクチン予約の受け付けが始まりました。ただ、個別接種をしようとして病院の問い合わせ先を調べると、コロナワクチン専用の予約手段がほとんど電話なんです。

 一部個人病院でもウェブページが開設されているところもあり、申し込もうとしたのですが、どこも予約が取れず、電話での予約をお願いされることがほとんどでした。

 仕方がないので夫(夫は聴者で、電話をすることが可能です)に片っ端から電話をしてもらいました。こういった片っ端から電話ができるというのも、横で見ていて「聞こえる人ならではだなぁ」と思いました(余談ですが執筆時点で、どこも全く予約が取れないので、集団接種の予約ができる日時まで待とうかと話しています)。

 この時に改めて、聞こえないと電話ができないので、集団接種以外選ぶことができず「選択肢が減ってしまうんだなぁ・・・」と痛感しました。集団接種や自衛隊の大規模接種センターなどの場合は、オンラインでの予約ができるようになっています。それだけでも、もちろんありがたいことなので予約ができるようになり次第、ウェブから予約していこうと思っています。※集団接種の場合は聴覚障害者向けにFAXの対応があったりと、かなり配慮をされています。

横浜市のホームページより

 ◇大学病院の予約変更も電話しかない

 わが家の場合、長女に難病があるということもあり、大学病院に行くことが多いのですが、大学病院の予約変更や、診断書の作成依頼など何か連絡をしたくても、ほとんどのところで電話番号しか記載されていません。

 また、診断書などが出来上がった際の連絡も「メールではなく、電話でしか受け取れない」と言われることも多々あります。私の場合は、夫の番号に電話をしてもらうようにお願いをしますが、逆に言うと、もしも夫が聞こえなかったら何かしら別の手段を使う必要があります。また、細かい診断内容の話などを医師とするときに横で見ていても、珍しい難病ということもあって、これは事前知識がないと、もし通訳を頼んだとしても「その場で通訳するのは難しいだろうなあ・・・」と思う内容もあったりします。聴覚障害を持っていると窓口で伝えると「聞こえる人に電話をお願いしてください~!」と気軽に言われるので「仕組みが、すでに誰かにお願いすることが前提なんだな」と、自分自身で完結できないことにモヤッとすることもあります。

 意外と日常の中のちょっとしたことなのですが、このちょっとしたことが「できない」というのと、毎回夫に頼むというのが申し訳なくて「しんどいなぁ」と思うこともあります(夫の名誉のために言うと、嫌がられたことはないし、快く電話をしてくれています)。

ホテルのフロント=写真はイメージ

 ◇ホテルで内線を使えない

 仕事柄出張があり、ホテルに泊まることがあります。

 何か必要なものや、ことがあった際に、聞こえる人はホテルのフロントに内線電話をかけて「(ナイフ、フォークなどの)カトラリーが欲しい、氷が欲しい」などと要望を伝えることができますよね。

 私の場合は電話ができないので、何か要望があると毎回フロントまで足を運ぶことになります。

 それだけならまだ良いのですが、たまに、何かしら用があってフロントから電話がかかってくることがあります。例えば、来客時などの呼び出しがあったり、いったんロビーで別れたものの、忘れ物があって呼び出しをしてきたケースなど。

 そういうときに、そもそも電話の音にも気付かないですし、ランプに気付いたとしても出られないので「不便だなぁ〜」と感じています。かといって、ホテルの従業員の方にドアをノックされても分からないですし、マスターキーで開けられたら、それはそれで怖いですよね。なので「そっか、ホテル側から聞こえない私への連絡手段がないのか・・・!」と痛感しました。

 そういったこともあって、私自身は、できるだけホテルなどではチェックインの際に「耳が聞こえないこと」をしっかり伝えるようにしています。また、宿泊時に1回はフロントやロビーに顔を出したりするようにしています。そうしておかないと、災害時(火災報知器のベルの音なども聞こえないため)に逃げ遅れてしまったり、気付かないままになったりしそうなんですよね。事前に伝えておけば、「あそこの部屋の客は聞こえない!」と思い出してもらえるかもしれないと期待しています。

 ◇実は『電話リレーサービス』という選択肢もある

 実は今、聴覚障害者が電話をすることができないといった問題を解消するために『電話リレーサービス』があります。聞こえない人と聞こえる人の間に通訳者が入り、文字や手話で会話をしながら電話をすることができるサービスです。

 今年の6月からは24時間いつでもかけることができ、さらに110番や119番などといった緊急通報もかけることができるようになりました(フリーダイヤル、緊急通報以外は有料サービスとなります)。

 人によっては普段は使うことがなくても、こういった選択肢が増えたおかげで、いざという時に救急車を呼んだり、警察を呼んだりすることができるので、安心して過ごせるようになった人も多いのではないでしょうか。

 私も、妊娠していたときに「陣痛が1人の時に来たらどうしよう・・・!どうやって連絡しよう・・」と不安だったので(結果的に夫がいる時に来ましたが)こういったセーフティーネットがあるのは、すごくありがたいなと感じています。

 ◇昔に比べて圧倒的に技術も理解も進化した!

 そして、私自身ここ10年で圧倒的に過ごしやすくなっています。

 電話のみの予約が多かった10〜15年前に比べて、ウェブ予約ができるお店が増えたので、飲食店を予約することもできるようになりましたし、個人病院の予約も直前でなければネットでできるようになっています。しかも、家族と電話をしたいときでもビデオ電話で会話をすることができるので、それ以外に問い合わせをしたいときでも電話のオペレーターだけではなく、チャットオペレーターといった選択肢も増えました。

 この間びっくりしたのは、粗大ごみの予約がチャットでできるようになっていたり、カード会社に問い合わせをしたいときも、チャットを当たり前のように使えたりと、テキストでのコミュニケーションが増えたおかげでストレスが一気に減りました。

 調べたいこともネットですぐに調べられますし、同じ障害を持った人ともSNSで出会うことができ、悩みを相談しやすかったり、障害のバリアーが低くなっているように感じています。

 そして、それに伴って差別も減ってきており、障害があっても自分らしく生きられるようになってきています。私自身、10年前、20年前と比べて、今の方が周囲の理解を当たり前のように得ることができ「生きやすくなったなぁ」と思いますし、聞こえないことを話しても、さっと筆談用具を出してくれたり「どう対応したらいいのか?」が知られるようになってきていると思います。

 これからますます技術も、そしてマイノリティーへの理解も当たり前に柔軟になっていきそうな未来を肌で感じています。これから先の未来がどうなっていくのか楽しみです。

 ◇最後のごあいさつ

 これまで全14回の連載をさせていただきました。聞こえないことについて真面目な話も、日常に密接した身近な話も自由に書かせていただき、多くの方に見ていただけたことに心より感謝しています。皆さんの身近には、あまりいないかもしれませんが、聞こえない人のことや、もしかしたら何か事情があるかもしれない人のことを想像してもらえる一つのきっかけになると、すごくうれしいです!またきっと、どこかでお会いできるのを楽しみにしています。本当にありがとうございました。(了)

牧野さん

 ▼牧野友香子(まきのゆかこ)さん略歴

 株式会社デフサポ 代表取締役

 生まれつき重度の聴覚障害があり、読唇術で相手の言うことを理解する。

 幼少期にすごく良いことばの先生に出会えたことでことばを獲得し、幼稚園から中学まで一般校に通い、聴者とともに育つ。

 大阪府立天王寺高等学校から神戸大学に進学し、一般採用でソニー株式会社に入社。

 人事で7年間勤務。主に労務を担当し、並行してダイバーシティの新卒採用にも携わる。

 第1子が50万人に1人の難病かつ障害児だったことをきっかけに、療育や将来の選択肢の少なさを改めて実感し、2017年にデフサポを立ち上げ、2018年3月にソニーを退職し、聴覚障害児の支援に専念。デフサポでは聴覚障害児の親への情報提供、ことばの教育、就労支援を中心に実施。

 2020年より多くの人に難聴に興味を持ってもらいたい!とYouTubeでデフサポちゃんねるをスタートする。

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