ダイバーシティ(多様性) 障害を持っても華やかに

“言葉”は奥が深い!
~家の中で会話ができれば「OK」というわけではない・・・~ (ソニー出身、デフサポ代表取締役 牧野友香子)【第12回】

 ◇実は言葉には「生活言語」と「学習言語」がある

 「生活言語」は日常生活の中で使う言葉です。

 「お風呂に入るよ〜脱いで〜!」とか「ティッシュ取って〜」とか「きょうは保育園でお散歩に行ったよ」というような、本当に家庭の会話で使われるような言葉です。そして比較的教えるのが簡単で、かつ、子どもも、すんなり獲得しやすい言葉です。

 「学習言語」は教科書に載っているような言葉をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。いわゆる言葉を使って「新しい言葉」を説明する言語になります。

京都の観光名所・清水寺

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 例えば、理科の授業で、こういった勉強をしたことがあると思うのです。「植物が土の中から芽(め)を出すことを発芽(はつが)と言います。もしも、植物が発芽した後に、光を当てずに、陰になる場所に置いていたり、肥料を与えなかったりすれば、しっかりとした植物はできません」

 だいたい小学校3年生以降は、こういった文章で知らない言葉の説明を受けたり、論理的な文章になったりしてきます。これを「学習言語」と言います。

 これらは、しっかりとした言葉の土台が無いと「文章をそのまま読むこと」はできても、「書かれている意味を理解すること」が難しくなってしまいます。

 ◇「生活言語」が足りない&コミュニケーションが取れないと「学習言語」への移行がうまくいかない

 年齢平均よりも「生活言語」が多少不足していても、家の中での日常会話は問題なく成立するので、子どもの言葉レベルは大丈夫なように思えます。

 例えば

 「きょう幼稚園で泥団子作ったの?」

 「うん、あのね、くるくるって」

 「へえ〜!ピカピカになった?」

 「うん」

 というような会話ができていれば「大丈夫だ!」と思ってしまいがちです。もちろん大丈夫なケースもありますが、オープンクエスチョン(Yes Noの返事ではなく自分で考えて返事をするもの)には答えられないことがあります。とはいえ、低学年のうちは国語の音読・ひらがなや算数などで大きくつまずくことがないため、問題が表面には出てきません。

 その後、小学校3年生ごろになっての抽象的な学習でつまずくと「うちの子は頭が悪いからつまずいてしまうんだ」と思ってしまいます。そうなると「いっぱいドリルを解いて、たくさん勉強をしないと!」と、いわゆる“勉強”をさせがちになってしまいます。

 しかし、根本的な問題はそこではなく、言葉が不足していることなんです。

 難聴児の場合は、どうしても耳から言葉が入らないため、親御さんが気付かないうちに、言葉が足りなかったり漏れてしまったりします。その結果、抽象的な概念や、人に説明できるだけの言葉が足りず、最終的に「学習言語」にうまく移行できないケースが多々あります。

 ◇どうして、そこまで言葉が大事なのか?

 実は、意識していないと思うのですが、人は言葉で物事を考えます。

 多くの人が映像で物事を考えるのではなく言葉で思考しているんですね。

 しかし、聞こえないことで、第一言語の「日本語」ですら満足に習得できないと「学習言語」でつまずいてしまい、結果として論理的に考えることができなかったり、表面的な簡単な考えしか分からず深く考えることができなかったり、といった問題が多々あります。

 逆に言うと、日本語、日本手話、英語など、どの言語かにかかわらず、第一言語がしっかりと入っていれば、そういった問題は起きづらくなります。

 こちらは難聴者に限らず、バイリンガルの方でも同じ問題を抱えている人も多いです。

緊急事態宣言で臨時休業する商業施設「マルイシティ横浜」=2020年4月

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 ◇私自身も、いまだに聞こえないからこその間違いが多い

 私自身、耳が聞こえていませんが、第一言語は日本語で、日本語はある程度問題なく活用することができています。とはいえ、聞こえないことで言葉が入ってないな〜と思う経験を多々しています。

 例えば、関西出身である私は、京都にある有名な「清水寺(きよみずでら)」というお寺の名前を耳にすることが多かったんですね。

 そして、数十年後、就職活動の時に「清水建設」という名前を見て「きよみずけんせつか〜」と思い「そこの会社とか、いろいろな会社が来てたよ・・・」ということを母に伝えようとして「よく家を建ててるさ、『きよみずけんせつ』っていう会社もあったよ!」と伝えると「・・・?清水建設!それは『しみずけんせつ』って言うねんよ〜!」と大爆笑されました。

 耳が聞こえないと、誰もが当たり前にコマーシャルやテレビなどから耳にして、いつの間にか当たり前のように知っている単語が入りづらいんです。

 出生率(しゅっしょうりつ)を「しゅっせいりつ」だと思っていて、指摘されて初めて知ったり・・・。こういった漢字の読み間違いなどは、大人になった今でもしょっちゅうあります。

 そうそう、日常で当たり前に皆さんが話しているOIOI(マルイ)も「オイオイ?」と思っていましたし、A.P.C(アーペーセー)を「エーピーシー」と言っていたりで、結構いまだに服のブランドはなんて読んだらいいのか分からず、苦手です。かの有名な、HERMES(エルメス)も「ヘルメス」だと思ってましたっけ。

 子どもの頃、私は本が好きで、本から語彙(ごい)を増やしていました。

 話し言葉が中心に入りやすかったためか、慣用句やことわざを会話の中で多用してしまったり「あまりそれ、同級生との話し言葉では使わないよ・・・?」というような言葉を使ったりもしていました。

 「うわ!恥しい〜!ずっとこれ付けてたん?」と言えばいいところを、本のフレーズから引っ張ってきて「顔から火が出るほど恥ずかしい!」って言ったりして、クラスメートから「・・・間違ってないけどなんか・・・タイミングが変じゃない?」と言われることもありました。

 思春期の頃にはテレビや動画でも字幕が当たり前になり、かなりそういった部分も修正されてきましたが、それでも“言葉”って、奥が深くて楽しいなあ〜といつも思っています。(了)


牧野友香子さん

牧野友香子さん

 ▼牧野友香子(まきのゆかこ)さん略歴

 株式会社デフサポ 代表取締役

 生まれつき重度の聴覚障害があり、読唇術で相手の言うことを理解する。

 幼少期にすごく良いことばの先生に出会えたことでことばを獲得し、幼稚園から中学まで一般校に通い、聴者とともに育つ。

 大阪府立天王寺高等学校から神戸大学に進学し、一般採用でソニー株式会社に入社。

 人事で7年間勤務。主に労務を担当し、並行してダイバーシティの新卒採用にも携わる。

 第1子が50万人に1人の難病かつ障害児だったことをきっかけに、療育や将来の選択肢の少なさを改めて実感し、2017年にデフサポを立ち上げ、2018年3月にソニーを退職し、聴覚障害児の支援に専念。デフサポでは聴覚障害児の親への情報提供、ことばの教育、就労支援を中心に実施。

 2020年より多くの人に難聴に興味を持ってもらいたい!とYouTubeでデフサポちゃんねるをスタートする。

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