[皮膚の構造とはたらき] 家庭の医学

 皮膚はからだをおおって、体外から受けるいろいろな刺激(日光・紫外線、寒冷・暑熱、各種の異物、ウイルス・細菌・真菌など)から保護しています。そのため、皮膚のはたらきがわるくなると、皮膚のみならずからだの健康がそこなわれます。いっぽう、皮膚は絶えずいろいろな刺激を受けているので、刺激に打ち勝つために、皮膚には抵抗力を強める機能が備わっています。
 このような機能を発揮しやすくできるように、皮膚を丈夫に保つことが大切です。それには、内臓を含めて体全体を健康に保つ必要があり、便秘、おなかをこわしやすい、だるい、睡眠不足といった、病気とまではいえない、ちょっとしたからだの変調にも注意が必要です。
 皮膚の病気の多くは皮膚自体の変化ですが、いっぽう皮膚と内臓とは密接な関係があり、皮膚病の原因として、肝臓、腎臓、胃、腸など、内臓の変化があげられています。皮膚病変をみて内臓病変に注意するのはこのためです。

■皮膚の構造
 皮膚の総面積は1万6000cm2で、厚さは1.4mmなのに、重さは体重の16%(肝臓の3倍)を占めています。皮膚の表面には、細い溝(皮溝〈ひこう〉)と、その間のたかまり(皮丘〈ひきゅう〉)があります。若いうちは、この溝がこまかい網目状をしていますが、中年以後になると、これが目立って荒くなってきます。
 皮溝が交差するところに毛口(毛孔〈もうこう〉)があり、皮丘の中心部に汗口(かんこう)があります。毛口からは毛が生えており、汗口からは汗が分泌されます。毛は、皮膚に25~40°の角度をもって斜めに生えていますが、近くの毛は同じ方向に走っています。この方向を毛並みといいます。
 皮膚は表面から、表皮、真皮、皮下組織の3つに分かれ、これに汗腺(かんせん)、脂腺(しせん)、爪、毛の皮膚付属器が加わっています。


□表皮
 表皮は、その表面から角層、透明層、顆粒(かりゅう)層、有棘(ゆうきょく)層、基底層の5つに区分されます。この中で透明層は手掌(しゅしょう:てのひら)と足底(そくてい:足の裏)のみにあります。
 表皮では、最下層の基底細胞が細胞分裂して新しい表皮細胞ができ、しだいに上のほうに向かって押し上げられていって、有棘層、顆粒細胞、角質細胞と、かたちとはたらきを変えながら移動しています。表皮細胞は顆粒層の細胞までは核をもっていますが、角層の細胞になると突然核がなくなってきます。つまり、角層の細胞は死んだ細胞です。このような表皮細胞の変化を“分化”あるいは“角化”と呼んでいます。
 はじめ円柱状であった表皮細胞が、上にいくにつれて、幅の広い扁平なかたちの細胞に変わっていきます。そうして表面の角質細胞は扁平な雲母(うんも)状のかたちになって、最後は皮膚の表面からはがれ落ちていきます(これは、あかやふけの成分です)。
 健康な皮膚では、基底細胞が分裂して顆粒細胞になって、それが角質細胞に変わるまでに14日間、角質細胞になったものが皮膚表面からはがれ落ちていくまでに同じく14日かかります。つまり、新しくできた表皮細胞が角質細胞になって皮膚表面からはがれ落ちるまでに28日かかるわけです。これを表皮細胞の転換時間(ターンオーバー・タイム)といっています。これが一部の皮膚の病気では、もっと短くなってきます。
 表皮は、これらの表皮細胞とその細胞間のすきまを占めている細胞間物質とからできています。この細胞間物質は体液からできていて、液体の中に表皮細胞が浮いているかたちになっています。そのため、表皮細胞が液体の中でバラバラにならないように、デスモソームと呼ばれる構造物で結ばれています。
 角層には、セラミドなどの脂肪成分が含まれていて、水分をせきとめるはたらきがあり、細胞間の水分が皮膚表面に向かって流れ出るのを防いでいます。角層の下の表皮は水びたしになっていますが、皮膚の表面は乾いているわけです。
 表皮細胞は、基底細胞が細胞分裂して最後には角質細胞になって、皮膚表面からはがれ落ちます。角質細胞は、ケラチンと呼ばれる、かたいたんぱく質からできています。その細胞膜は非常に厚く、かたいので、物理的ならびに化学的刺激に対する抵抗力が強く、いろいろの刺激から皮膚を保護するはたらきをもっています。さらに、表皮細胞は外からの異物に対して炎症反応、免疫反応を起こす物質を分泌します。また、細菌やウイルスなどの病原微生物の侵入を阻止する物質も産生します。ヒトのからだの最外層に位置して外界からのいろいろな接触物、侵入者に対応しているわけです。
 表皮にはこのほか、“色素細胞”と“ランゲルハンス細胞”と呼ばれる2つの細胞が含まれています。その数は少ないのですが、ともに樹枝状のかたちをしているので樹状細胞と呼ばれていて、それぞれ特有のはたらきをもっています。
 色素細胞は基底細胞の間に等間隔に分布し、皮膚の色素である“メラニン”をつくっている細胞です。つくったメラニンをその細胞の枝を通して、まわりの基底細胞に配給しています。そのため、ふつうの皮膚では基底細胞にメラニンが多く含まれています。メラニン色素は皮膚の色調(白い、黒いなど)形成に重要な役割を果たしていますし、紫外線防御にも役立っています。
 もう一つのランゲルハンス細胞は免疫に関係があり、外から入ってきた異物を認識し免疫反応を起こします。たとえば、かぶれの発生に重要なはたらきをもっています。

□真皮
 皮膚の中心をなしているもので、おもに膠原(こうげん)線維と弾性線維からできています。それに加えて、血管、リンパ管、神経が含まれています。膠原線維は一定のかたさと張りを与え、皮膚を支持する機能をもっています。弾性線維は皮膚に弾力を与えているものです。この2つの線維がおとろえてくると、皮膚の張りと弾力がなくなって、小じわがよってきます。
 これらの線維はたんぱく質からできているので、たんぱく質を十分にとることが大切です。また、膠原線維には副腎のはたらきがよいことと、ビタミンCが必要です。血管は皮膚の栄養をつかさどっていますが、表皮にはこれがなく、血液から出た体液が基底細胞のすきまを通って表皮内に入り、細胞間をひたして栄養を与えているのです。神経は、皮膚の知覚(触覚、温覚、冷覚、圧覚、痛覚)をつかさどっています。

□皮下組織
 真皮とその下の筋肉、骨との間にある部分で結合組織からできていて、その間に脂肪を含んでいるため、皮下脂肪組織とも呼ばれます。ひたい、むこうずねのように、すぐ下に骨のあるところではこの層は薄く、臀(でん)部では厚くなっています。

□皮膚付属器
 毛、毛を入れている毛包(もうほう)、汗腺、脂腺のことで、おもに真皮の中にあり一部は皮下組織の中に含まれます。皮膚が特殊なかたちに変化した爪も皮膚付属器に入ります。

□汗腺
 これには2つあります。生まれたときから、からだ全体にあるもので、暑いとき仕事をして出るのはエクリン腺(小汗腺)からの汗です。もう一つは、わきの下、乳首、へそ、陰部に思春期になってはじめて発育してくるもので、アポクリン腺(大汗腺)と呼ばれます。
 エクリン腺からの汗は透明で不快なにおいはありませんが、アポクリン腺からのものはたんぱく質が多く、濁っていて、一種の悪臭があります。これが強いものが、“わきが”(腋臭〈えきしゅう〉症)です。

□脂腺(皮脂腺)
 皮脂(脂肪)を分泌します。脂腺は毛包に接しており、皮脂をこの中に分泌します。皮脂は毛包から皮膚の表面に出て、それをおおうようにひろがります。これを皮表脂質といって皮膚の水分保持を助け、また、外来物質の刺激を防ぐ役割があると考えられています。
 脂腺は思春期になって発育し、はたらきもさかんになってきます。男性ホルモンの刺激により、男性のほうが女性より脂腺の発育がよく油性の皮膚をしています。毛包に皮脂がたまると、にきびのもとになります。
 老化に伴い皮脂分泌が減少して、皮膚が乾燥して炎症を起こしかゆくなることがあります。高齢者の下腿(かたい)などによくできる皮脂欠乏性皮膚炎がこれです。

■皮膚のはたらき(生理機能)
 1.外からのいろいろな刺激に対し、からだを守ります。物理的、化学的刺激には皮脂、角層、色素細胞が、炎症反応や免疫反応にはランゲルハンス細胞や表皮細胞が役目を果たしています。
 2.からだの温度を一定に保つことを、皮膚の血管(夏はこれがひろがり、冬には収縮します)、発汗がつかさどっています。冬、寒い風に当たると鳥肌が立つのも、皮膚の面積をちぢめて、表面から熱が発散されるのを防ぐためです。
 3.分泌排泄(はいせつ)作用として、汗、皮脂を皮膚の表面に分泌します。また、表面から角質がはがれていきます。
 4.知覚作用には温覚、冷覚、痛覚、圧覚、触覚の5つがあります。皮膚感覚の特徴に痒み(かゆみ)があります。痒みは痛覚の弱いものとみなされていましたが、現在では別個の感覚と考えられています。
 5.弱い呼吸作用があります。
 6.弱い吸収作用があります。
 7.外から入ってくるものに対し免疫反応を起こします。有害なものからからだを守る作用があり、このため、予防注射として皮内注射がおこなわれます。
 8.ビタミンD形成作用があります。皮膚が日光に当たると、そこでビタミンDがつくられ、体内に吸収されます。これは骨の発育に大切なもので、不足すると、“くる病”が起こることがあります。