硫化水素〔りゅうかすいそ〕
硫化水素は下水処理場や、廃棄物貯蔵タンクなどで有機物から発生し、嗅覚(きゅうかく)まひを起こすので、気づかないうちに意識障害や窒息になります。こうしたところでは酸欠もあわせて起こることが多く、被災者を救出しようとして2次災害が起こることがあります。したがって救助にあたっては、ホースやボンベで空気を供給するマスクを着用するなどの注意が必要です。2025年には埼玉県で硫化水素がつくり出す酸が巨大な下水道管を腐食・破損した結果その上の道路が陥没し、交通や地域住民の生活に大きな被害をもたらしました。これに加えてわが国では、火山の周囲や温泉などで高濃度の硫化水素が発生する場所があり、観光客や温泉旅館の従業員のガスによる死亡事故が絶えません。特に山奥の温泉地の冬場はガスが雪のためにたまりやすく、しばしば事故が発生しています。しかしそうした温泉地の一部で、がん予防になるなどとして積極的にそうしたガスを浴びようという人もいます。その結果、実際しばしば事故が発生し、過疎地の医療の圧迫要因になっている場合もあります。
(執筆・監修:帝京大学 名誉教授〔公衆衛生学〕 矢野 栄二)