無痛分娩

■心理学的(精神的)無痛分娩法
 産婦の自主的な精神活動を通して産痛の緩和をはかる分娩(ぶんべん)方法で、古くは1933年にイギリスのリード(Read)が提唱した自然分娩法、ソ連(当時)の条件反射を利用した精神予防性無痛分娩法にさかのぼることができます。
 現在ではラマーズ法やソフロロジー式分娩法、リーブ法などが知られています。

■麻酔による無痛分娩法
 現在の無痛分娩は、硬膜外麻酔単独、あるいは硬膜外麻酔と脊髄くも膜下麻酔との併用が一般的です。


□硬膜外麻酔
 脊髄をおおっている硬膜の外側にチューブを挿入して麻酔薬を注入するものです。チューブを留置しておけば、何回も追加して注入することができ、痛みはとれて、産婦の意識ははっきりしています。麻酔が効いてくるのに20分程度かかりますので、陣痛がつらくてすぐに効いてほしいときには、脊髄くも膜下麻酔を併用します。
 脊髄を囲む脊柱、いわゆる背骨は、頚椎、胸椎、腰椎、仙椎に分かれます。子宮や産道の痛みをとるためには、胸椎の最下部から腰椎全体、仙椎の上部まで麻酔が必要な範囲です。すなわち、子宮の収縮(陣痛)にかかわる部分と産道を胎児が下降するときの痛みの部分の両方の痛みをとる必要があるため、第1期の途中から始めて第3期終了まで麻酔します。しかし、十分な範囲の麻酔をすることで、歩行や排尿などにかかわる動作は抑制されるため、麻酔をしたのちは、原則的に歩行を中止する、また膀胱内にバルーンカテーテルを留置して排尿障害が出ないような対応をすることが一般的です。

□脊髄くも膜下麻酔
 硬膜外麻酔と併用することが一般的です。腰椎レベルで脊髄くも膜下腔へ専用の注射針を挿入して、麻酔薬を注入します。1回の注入しかできません。注入後すぐに麻酔は効いてきて、1時間から1時間半くらい効果が継続します。血圧が低下しやすいため、麻酔開始前より十分な点滴での輸液が必要です。時に頭痛などが数日続くこともあります。

□ペンタゾシンの筋肉注射
 硬膜外麻酔などの使用ができない場合に、非麻薬系の強い鎮痛作用のある薬剤として、ペンタゾシンの筋肉注射をおこないます。痛みは完全にとれるものではなく、くり返して使用する場合は、3~4時間ほど間をあけて使用します。眠気や吐き気、軽いふらつきなどをきたすことがあります。

・その他の麻酔法
 以前は分娩直前の会陰(えいん)部の痛みを除去するために、陰部の神経の本幹に腟あるいは皮膚から麻酔薬を注射する陰部神経遮断麻酔や吸入麻酔を用いる方法がありましたが、今はほとんど用いられません。

●無痛分娩・自然分娩 それぞれのメリット
無痛分娩のメリット自然分娩のメリット
・陣痛の痛みをやわらげることができる
・出産後の育児に向けて体力が温存できる
・お産の進行がスムーズになる場合もある
・妊娠高血圧症候群の血圧管理に有効
・出産後の会陰縫合や出血に対する処置にも鎮痛効果がある
・緊急帝王切開になった場合に無痛分娩用硬膜外麻酔を使用してすみやかに手術に移ることができる
・硬膜外麻酔のまれな合併症がない
・陣痛促進剤の使用、吸引・鉗子分娩の頻度が減少する
・分娩時間のうち第2期遷延(せんえん)は少ない
・分娩時の行動制限が少ない
・陣痛を経験して自然分娩できた達成感が得られる
・麻酔費用がかからない



□会陰切開
 会陰というのは腟(ちつ)の入り口と肛門との間の部分とその周辺をいいます。児頭が腟の入り口を通過しようとするとき、会陰部は非常に薄くひき伸ばされます。そのままにしておくと胎児の頭で会陰に裂傷ができることがあります。もちろん医師や助産師は、裂傷ができないように胎児の頭を押さえて会陰が伸びるのをまちますが、会陰がかたかったり、児頭を長時間押さえて分娩を長びかせることが望ましくないときは、局所麻酔をして会陰を切開します。切開した部分はきれいに縫合(ほうごう)され、もと通りになります。

 裂傷が大きいと直腸や肛門に及ぶこともあるので、あらかじめ切開したほうがよいことも多いのです。いまは吸収糸といって自然に吸収される糸を使って縫合することが多いので抜糸もしなくてすみます。

(執筆・監修:恩賜財団 母子愛育会総合母子保健センター 愛育病院 名誉院長 安達 知子
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