からだを清潔にする方法

 療養者にとってからだの清潔は、次のような効果があります。
・体温調節をおこなったり、皮膚からの細菌の感染を防ぐという皮膚の重要なはたらきを保ちます。

・血行をうながし、代謝を促進します。

・筋肉の疲れや緊張を緩和し、筋肉の萎縮(いしゅく)や関節の運動障害を防ぎます。

・気分をさわやかにし、回復意欲をうながします。

 からだを清潔にするには、入浴やシャワー、からだをふくなどの方法がありますが、病気の状態や療養者のその日の体調に合わせて方法を選択します。
 入浴、シャワー浴前は、発熱、呼吸困難や疲労の有無、血圧をチェックし、異常のあるときや体調のわるいとき、食後1時間以内、もしくは空腹時は避けましょう。また、入浴やシャワー浴、からだをふくときには、室温、湯温を調節しておこないましょう。入浴回数のめやすは、いつも床に着いている人は週1回、寝たり起きたりしている人は週2回、ほとんど起きている人は週3回程度です。

■入浴方法
 ここでは、介助があれば自分で動ける人の場合も想定して説明します。

1.脱衣して浴室に入ります。このとき、滑って転ばないように、足もとに注意しましょう。立位や歩行の不安定な人は、ひざやしりをつけたまま進んで浴室に移動するほうが安全でしょう。

2.湯温を確認し(38~40℃程度)、足もとからすこしずつお湯をかけ、下半身、陰部を洗い流し、全身にかけ湯をします。

3.浴槽の出入りは、浴室用の移動台やシャワーチェアなどを利用し、無理なく安全に出入りができるように工夫しましょう。
 まひがある場合は、健常側から浴槽に入ります。まひ側は、知覚のまひにより、お湯の温度が高くても、熱さを感じにくくなっていることがあります。
 また、まひ側でからだを支えようとすると、バランスをくずし転倒することもありますので、まひ側から浴槽に入るのは避けましょう。入浴中は、健常側の手で浴槽のふちをもち、足を浴槽の壁につっぱり、バランスをくずさないようにします。
 介護保険の給付を受けると、シャワーチェアや浴槽手すり、バスボードなど、入浴用の介護用品が1割負担(人によっては2割あるいは3割)で入手できます。必要ならば、介護用品を使って、安全に楽に入浴できるよう工夫をします。

4.3~4分後、浴槽であたたまったら(体調によって短縮したり、やめることもある)、髪を洗い、タオルで髪の水分をふきとり、その後、からだをせっけんで洗います。
 からだを洗うときは、末端からからだの中心に向かってマッサージするように洗い、血行をうながします。足は特にあかがたまりやすいので、ていねいに洗います。皮膚の状態によって、タオルを使わずに手で洗うなどして、過度な刺激を避けるように工夫します。

5.せっけんをよく洗い流し、浴槽で1~2分あたたまります。

6.浴槽から出て、全身の水分を十分にふきとります。

7.入浴後は汗が多く出るので、水分補給をします。
 介助者はぬれてもいい服装で洗い場で見守るか、脱衣所で見守ります。

■シャワー浴
 シャワーがある場合には、椅子に座っていられる人なら無理なくシャワー浴ができます。浴室に、ぬれてもかまわない椅子やシャワーチェアを置き、手すりなど、つかまるところをつくっておきます。
 入浴時と同じように、入る前に浴室をあたためておきましょう。

■からだをふく(清拭)
1.室温を調節します。

2.50℃くらいの熱めのお湯を用意します。

3.洗面器を2つ用意し、せっけん用、ふきとり用に使い、それぞれにタオルを入れ、お湯を注いでおきます。

4.からだにタオルケットをかけ、ふく部分だけを露出させます。

5.タオルを絞り、せっけんをつけ、からだをふきます。

6.ふきとり用に用意したタオルを絞って、せっけん分をきれいにぬぐいます。

7.ふき終えたら、乾燥したタオルで湿気をとり除きます。乾燥しやすい部分にはクリームや乳液をつけておきます。湿潤しがちな部分はよく乾かしましょう。

8.背中やおしりなど、床ずれの生じやすい部分は、皮膚に傷やはれ、ただれがなければ、マッサージをすると循環がよくなって、床ずれの予防にもなります。

9.陰部は汚れやすく、不潔にすると、膀胱(ぼうこう)炎などの感染症を起こす可能性もあるので、ふく以外にも洗い流す方法が効果的です。おしりの下におむつを敷き、タオルにせっけんをつけて洗ってからお湯で流します。洗ったあとは十分に水気をふきとって、湿った状態で下着をつけないように注意しましょう。

■足浴
 足はふくよりも、お湯に足をつけて洗うほうが、お風呂に入ったような気分で気持ちのよいものです。

1.ビニールシートの上にバスタオルを敷き、お湯の入った洗面器をその上に置きます。横になったままおこなう場合は、ひざを立てた状態で両足をお湯に入れます。椅子や車椅子に座れる場合は、深さのある足湯用のバケツを使うと、足湯のようにくるぶしより上までお湯につけることができます。ビニールシートの代わりに、大きめのごみ袋を使用してもよいでしょう。

2.せっけんで指の間もよく洗い、タオルで水分をふきとり、パウダーやクリームをつけます。ただし、足の指の間は湿潤しやすいため、保湿クリームをつけないようにします。

■頭髪の清潔
 髪は洗い流すのがいちばんです。洗髪には、洗髪用パッドを用いるか、清潔な紙おむつ(水分の吸湿性がよい)を頭の下に敷いておこなうことができます。

 また、髪が洗えない状況では、ドライシャンプーで頭髪の清潔を保つこともできます。病状が安定していれば、週に一度は髪を洗いたいものです。

□洗髪
・準備するもの…お湯(40℃ぐらい)、洗髪用パッド、やかん、汚水を受ける洗面器あるいはバケツ、タオル、ビニールシート、シャンプー、ヘアリンス、ブラシ、ドライヤーなど
 やかんの代わりに、ふたに穴を数カ所あけたペットボトルを使うと、シャワーボトルのように使うことができます。必要な本数を用意して、お湯を入れておけば、手早くおこなうことができます。

・方法…ふとんがぬれないように、肩から頭にかけて大きめのビニールシートを敷き、その上にバスタオルを敷いて、洗髪用パッドを置きます。洗髪用パッドの先端を、汚水受けの洗面器かバケツに入れておきます。このとき、ある程度の落差が必要なので、ふとんが薄い場合は、頭の部分に座ぶとんを入れて高くします。洗髪用パッドのふちに、くびが乗るようにして、頭髪の部分を中に入れます。
 頭髪全体を十分にぬらし、シャンプーを手のひらにとり洗います。髪が汚れている場合は、2度洗いします。やかんに入れたお湯を頭髪にかけてすすぎます。ヘアリンスで頭部をマッサージし、お湯をかけてよくすすぎます。洗髪パッドをはずして、下に敷いてあったバスタオルで頭部をふき、水分を十分に取り除きます。ブラッシングしながら、ヘアドライヤーで乾かします。


□紙おむつを使う簡易シャンプー
・準備するもの…お湯と水、紙おむつ2枚、バスタオル2枚、ビニールシート

・方法…ビニールシートの上にバスタオルと紙おむつを敷き、まずお湯をかけ、1枚目の紙おむつをはずします。シャンプーで洗い、バスタオルで泡をふきとります。水で洗い流し、2枚目の紙おむつに吸収させ、最後にバスタオルでふきとります。

□ドライシャンプーを使う
・準備するもの…タオル2枚(頭の下に敷くタオル、頭髪をふくタオル)、ドライシャンプー、熱めのお湯を入れた洗面器、ブラシ

・方法…頭の下にバスタオルを敷きます。蒸しタオルで頭髪全体を包み、ドライシャンプーを頭髪全体にまんべんなくつけます。あたためたタオルでドライシャンプーをきれいにふきとります。

(執筆・監修:東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 看護科学域 准教授 竹森 志穂)