床ずれの予防と手当て
床ずれ(褥瘡〈じょくそう〉)の多くは、皮膚が圧迫され、その部分の皮膚組織に十分な血液がゆきわたらなくなり、発赤やびらん、壊死(えし)が起こる状態のことです。そのままにしておくと、皮膚の奥のほうまで壊死が進み、時には骨にまで達することもあります。
床ずれは、皮膚に傷ができた状態ですから、なにもせず不潔にしていると、細菌感染を起こし、発熱やひどくなると敗血症を起こすこともあります。寝たきりで、からだを動かさないと、1日で臀(でん)部、腰、かかとなどに、床ずれができることもあります。
いちばん大切なことは、床ずれをつくらないように、予防することです。床ずれができてしまうと、本人の苦痛に加え、介護する側の負担も大きくなります。
■床ずれができやすい状況
・自分で寝返りができず、からだの1カ所に圧力がかかりやすい(血液の循環がわるくなる)。
・食事がとれないことで、十分な栄養摂取ができない(全身状態がわるくなる)。
・長時間の臥床(がしょう)や、紙パンツ(おむつ)の使用で皮膚が湿潤し、不潔になる(細菌が繁殖しやすい)。
・むくみや貧血がある(皮膚の抵抗力が低下する)。
・からだを動かす際の外的な力で、皮膚に摩擦を与える(皮膚を傷つける)。
■床ずれのできやすい部位
寝ている姿勢のときに、からだの重みが集まる図のような箇所に床ずれができやすいです。
■床ずれの予防法
□からだの1カ所に長時間圧力がかからないようにする
できれば2時間おきに、からだの向きを変えます。エアマットや無圧ふとんを使います。特に床ずれのできやすい部分には、褥瘡予防パッド、ポリウレタンフォームなどのドレッシング材、ビーズクッション、ムートンの敷物など、床ずれの防止用具を利用するとよいでしょう。
寝ている姿勢によっては、からだに力が入ってしまい、そのせいで特定の部位に圧力がかかったり摩擦が起きやすくなることがあります。そのような場合は、訪問看護師などに相談してみましょう。
□血液の循環をうながす
からだをふいたり、紙パンツ(おむつ)を交換する際は、床ずれのできやすい部分をすこし熱めのタオルで温湿布します。皮膚が乾燥していると、摩擦によって傷つきやすくなるので、清拭(せいしき)や入浴のあとは、保湿のためのクリームを塗ります。
床ずれのできやすい部位に円座を使ってはいけません。周囲の皮膚が引っ張られたり圧迫されたりして、血行がわるくなってしまいます。
□しっかりと食事・水分摂取をおこなう
貧血、低たんぱく質によるむくみ、脱水などは、皮膚が弱くなるため、食事をしっかりととる必要があります。一度にたくさん食べられない場合は、おやつにヨーグルト、プリンなどを食べると水分、たんぱく質の補充になります。
□皮膚がむれないようにする
紙パンツ(おむつ)は、ぬれたらすぐに交換します。尿取りパッドだけがぬれている場合には、パッドのみ交換しましょう。汗をかいたら、こまめにふいたり、寝巻きをとり替えたりするとよいでしょう。
□摩擦・皮膚への刺激を避ける
からだを動かすときに、皮膚をこすらないようにします。シーツや寝巻きのしわをつくらないようにします。介護者は、爪を短く切っておくことが必要です。
□皮膚を清潔に保つ
寝たきりであっても、入浴(入浴サービスの利用)、清拭(せいしき:からだをふくこと)などで、からだの清潔を保ちます。紙パンツ(おむつ)が汚れたら、早めに交換し、汚れがひどいときは、陰部を人肌程度のお湯で洗います。
■床ずれの手当て
床ずれは、その状態によって手当ての方法が違います。主治医や訪問看護師に相談し、できるだけ早く、適切に手当てします。
□皮膚が赤くなる
指で押しても赤みが消えない場合は、初期の褥瘡です。赤くなっている部分をこすったりマッサージをしないようにします。ぬるま湯で流して皮膚を清潔にして、しっかり水分をふきとります。同じ部位に圧力がかからないように、姿勢の向きをととのえましょう。
□皮膚が剥離し(むけて)、ただれてしまった場合
消毒薬や軟膏(なんこう)などの薬剤を使う前に、医師や訪問看護師に診てもらい、手当ての方法を確認しましょう。多くの場合は、ぬるま湯で洗い流し、軟膏を塗るなどの手当てをします。医師から消毒薬を使うように説明された場合は、消毒する部分をこすらず、綿棒などで軽くたたくように消毒します。消毒後は、消毒薬が残らないように、ぬるま湯か生理食塩水で流します。
患部には清潔なガーゼや、医師から処方されたアズレンなどの薬剤や、ドレッシング材を当てます。滲出(しんしゅつ)液が多いときは、皮膚の消毒と滲出液の吸着を兼ねた薬剤を塗布すると、効果的な場合があります。
剥離(はくり)した部分が黒くなっている場合は、乾燥して治りかけているように見えるかもしませんが、その下の組織が壊死(えし)している場合が多いので、主治医や訪問看護師に診てもらいます。
□潰瘍・壊死になった場合
潰瘍になると、皮膚の深くまで血液の循環が障害されています。場合によっては、医師に壊死(えし)部分の切除をしてもらわなければなりません。患部は、細菌感染しやすい状態ですから、清潔を保ち、毎日手当てをします。
手当ての方法は、いくつかありますので、医師や訪問看護師の指示に合わせておこなってください。1日1~3回おこないます。
患部に、うみや壊死組織がある場合は、微温湯(ぬるま湯)をかけながら、清潔なガーゼできれいにします。多少出血しても心配ありません。
患部を洗浄後、処方された薬(抗生物質、壊死組織を融解する軟膏など)を塗布し、清潔なガーゼを当てます。滲出液が多い場合は、ガーゼの上にさらに適当な大きさに切った紙パッドを当てておきます。
改善してくると、肉芽(にくげ:新しくできあがった組織)が形成されてきます。この状態では、表面を乾燥させずに、湿潤を保つことが大切になるので、ドレッシング材を使います。潰瘍や壊死を起こした床ずれは、治癒するまでに数カ月かかることもあります。
(執筆・監修:東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 看護科学域 准教授 竹森 志穂)
床ずれは、皮膚に傷ができた状態ですから、なにもせず不潔にしていると、細菌感染を起こし、発熱やひどくなると敗血症を起こすこともあります。寝たきりで、からだを動かさないと、1日で臀(でん)部、腰、かかとなどに、床ずれができることもあります。
いちばん大切なことは、床ずれをつくらないように、予防することです。床ずれができてしまうと、本人の苦痛に加え、介護する側の負担も大きくなります。
■床ずれができやすい状況
・自分で寝返りができず、からだの1カ所に圧力がかかりやすい(血液の循環がわるくなる)。
・食事がとれないことで、十分な栄養摂取ができない(全身状態がわるくなる)。
・長時間の臥床(がしょう)や、紙パンツ(おむつ)の使用で皮膚が湿潤し、不潔になる(細菌が繁殖しやすい)。
・むくみや貧血がある(皮膚の抵抗力が低下する)。
・からだを動かす際の外的な力で、皮膚に摩擦を与える(皮膚を傷つける)。
■床ずれのできやすい部位
寝ている姿勢のときに、からだの重みが集まる図のような箇所に床ずれができやすいです。
■床ずれの予防法
□からだの1カ所に長時間圧力がかからないようにする
できれば2時間おきに、からだの向きを変えます。エアマットや無圧ふとんを使います。特に床ずれのできやすい部分には、褥瘡予防パッド、ポリウレタンフォームなどのドレッシング材、ビーズクッション、ムートンの敷物など、床ずれの防止用具を利用するとよいでしょう。
寝ている姿勢によっては、からだに力が入ってしまい、そのせいで特定の部位に圧力がかかったり摩擦が起きやすくなることがあります。そのような場合は、訪問看護師などに相談してみましょう。
□血液の循環をうながす
からだをふいたり、紙パンツ(おむつ)を交換する際は、床ずれのできやすい部分をすこし熱めのタオルで温湿布します。皮膚が乾燥していると、摩擦によって傷つきやすくなるので、清拭(せいしき)や入浴のあとは、保湿のためのクリームを塗ります。
床ずれのできやすい部位に円座を使ってはいけません。周囲の皮膚が引っ張られたり圧迫されたりして、血行がわるくなってしまいます。
□しっかりと食事・水分摂取をおこなう
貧血、低たんぱく質によるむくみ、脱水などは、皮膚が弱くなるため、食事をしっかりととる必要があります。一度にたくさん食べられない場合は、おやつにヨーグルト、プリンなどを食べると水分、たんぱく質の補充になります。
□皮膚がむれないようにする
紙パンツ(おむつ)は、ぬれたらすぐに交換します。尿取りパッドだけがぬれている場合には、パッドのみ交換しましょう。汗をかいたら、こまめにふいたり、寝巻きをとり替えたりするとよいでしょう。
□摩擦・皮膚への刺激を避ける
からだを動かすときに、皮膚をこすらないようにします。シーツや寝巻きのしわをつくらないようにします。介護者は、爪を短く切っておくことが必要です。
□皮膚を清潔に保つ
寝たきりであっても、入浴(入浴サービスの利用)、清拭(せいしき:からだをふくこと)などで、からだの清潔を保ちます。紙パンツ(おむつ)が汚れたら、早めに交換し、汚れがひどいときは、陰部を人肌程度のお湯で洗います。
■床ずれの手当て
床ずれは、その状態によって手当ての方法が違います。主治医や訪問看護師に相談し、できるだけ早く、適切に手当てします。
□皮膚が赤くなる
指で押しても赤みが消えない場合は、初期の褥瘡です。赤くなっている部分をこすったりマッサージをしないようにします。ぬるま湯で流して皮膚を清潔にして、しっかり水分をふきとります。同じ部位に圧力がかからないように、姿勢の向きをととのえましょう。
□皮膚が剥離し(むけて)、ただれてしまった場合
消毒薬や軟膏(なんこう)などの薬剤を使う前に、医師や訪問看護師に診てもらい、手当ての方法を確認しましょう。多くの場合は、ぬるま湯で洗い流し、軟膏を塗るなどの手当てをします。医師から消毒薬を使うように説明された場合は、消毒する部分をこすらず、綿棒などで軽くたたくように消毒します。消毒後は、消毒薬が残らないように、ぬるま湯か生理食塩水で流します。
患部には清潔なガーゼや、医師から処方されたアズレンなどの薬剤や、ドレッシング材を当てます。滲出(しんしゅつ)液が多いときは、皮膚の消毒と滲出液の吸着を兼ねた薬剤を塗布すると、効果的な場合があります。
剥離(はくり)した部分が黒くなっている場合は、乾燥して治りかけているように見えるかもしませんが、その下の組織が壊死(えし)している場合が多いので、主治医や訪問看護師に診てもらいます。
□潰瘍・壊死になった場合
潰瘍になると、皮膚の深くまで血液の循環が障害されています。場合によっては、医師に壊死(えし)部分の切除をしてもらわなければなりません。患部は、細菌感染しやすい状態ですから、清潔を保ち、毎日手当てをします。
手当ての方法は、いくつかありますので、医師や訪問看護師の指示に合わせておこなってください。1日1~3回おこないます。
患部に、うみや壊死組織がある場合は、微温湯(ぬるま湯)をかけながら、清潔なガーゼできれいにします。多少出血しても心配ありません。
患部を洗浄後、処方された薬(抗生物質、壊死組織を融解する軟膏など)を塗布し、清潔なガーゼを当てます。滲出液が多い場合は、ガーゼの上にさらに適当な大きさに切った紙パッドを当てておきます。
改善してくると、肉芽(にくげ:新しくできあがった組織)が形成されてきます。この状態では、表面を乾燥させずに、湿潤を保つことが大切になるので、ドレッシング材を使います。潰瘍や壊死を起こした床ずれは、治癒するまでに数カ月かかることもあります。
(執筆・監修:東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 看護科学域 准教授 竹森 志穂)