脊髄損傷(四肢まひと対まひ)のリハビリテーション

 おもに背骨に強い外力が加えられることにより、脊髄(せきずい)に損傷を受けた病態のことをいいます。脊髄損傷の原因疾患は、いろいろありますが、目立つのは外傷によるものです。労災事故としての作業中の転落、交通事故、変形性脊椎症のある高齢者の転倒事故、若年者のスポーツ事故などがそのおもな原因です。
 まひの程度も、脊髄の損傷の程度により、軽いものから完全なまひまでさまざまで、感覚の障害がみられることもあります。最近は頸椎(けいつい)症のある高齢者の転倒事故の増加により、頸髄損傷による四肢まひ(手足のまひ)の比率が増大しています。上肢が使えるか使えないかで、日常生活の困難度は決定的に異なり、完全四肢まひのリハビリテーションは複雑で時間もかかります。
 脊髄損傷でも、リハビリテーションは、発症時から2次的障害の予防に注意することが大切です。特に、四肢まひでは、受傷現場から救急車まで、救急車から病院救急室のベッドまでの運搬方法に注意して、できるだけ静かに運ぶようにします。
 褥瘡(じょくそう:床ずれのこと)ができる危険は、受傷後すぐから常にあります。日常生活の動作(ADL:activities of daily living)が自立し、社会復帰を目指すためには、完全まひの場合には、専門施設でのリハビリテーションを必要とします。
 退院までには、車椅子が使用できるように、居住・生活環境の整備をおこないます。四肢まひでは、ベッドと車椅子の乗り移りなどのために、リフターを必要とする人もあります。

 松葉杖歩行が可能な人でも、実用的には、車椅子が使用されます。長時間の車椅子生活では、坐骨部に褥瘡ができやすいので、1~2時間ごとに、自分の上肢で体重を持ち上げる(プッシュアップ)ことが必要です。
 排尿排便の管理は、自分でおこなうのが原則です。神経系の障害のため、膀胱(ぼうこう)の機能がうまくはたらかず、自発排尿が困難なことが多くみられます。自分で一定時間ごとにカテーテルを使って導尿する(自己導尿)か、手術で人工膀胱をつくったり、集尿袋を装着して、管理したりする必要があります。膀胱や直腸が充満しすぎると、血圧が急上昇して頭痛や発汗、発熱を生じることがあります。職場のトイレが整備されていないと、がまんしすぎて、こうした症状を生じることがありますが、腎臓にも悪影響を及ぼすので危険です。
 褥瘡も感覚障害のため自覚しにくいので、臀(でん)部など、見えない部位も鏡を利用して常に自分で気をつける必要があります。

(執筆・監修:帝京大学医学部リハビリテーション医学講座 准教授 中原 康雄)
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