脳性まひのリハビリテーション 家庭の医学

 脳性まひとは、周産期から新生児期にかけて、なんらかの原因で脳が損傷されて、運動発達が障害されたものをいいます。病気としては進行することはありませんが、発達とともに病状が変化したり、障害が拡大する例があります。知能の発達も障害されることがあり、視聴覚障害やてんかんを、合併する例もみられます。医学、医療の発達により、以前よりは発症数は減っています。
 最近は未熟児集中治療のおかげで、出生体重1500g未満の低体重出産や、胎生30週未満の未熟児出産であっても、ぶじに育つようになりましたが、いっぽう、こうした出産では、ふつうの出産より子どもが脳性まひになる確率が高いため、いまでもリハビリテーションの重要な対象疾患です。
 脳性まひでは、肢体不自由だけでなく、精神発達の障害も伴いやすいので、心身障害児または、複合障害児として対処の必要があります。
 脳の神経細胞は、胎生12週ころにはすべて発生していますが、重要なのは、むしろ脳の機能が発達する出生後です。したがって、乳児の段階で、できるだけ早く異常をみつけて、正常な発達を引き出す対応策を講じることが期待され、近年では脳性まひの可能性のある子どもは、生後3カ月ころにはみつけられるようになりました。しかし、人間は生後1年ほどで、ようやく自力歩行できる特殊な動物で、このため、脳の自然の修復力も大きく、乳児期の多少の遅れは、生後1~2年目までに解消されることもよくあります。
 運動発達の異常は、手足のかたさ(筋肉の緊張度の異常)、姿勢による反射の異常、哺乳の異常、くびのすわりや、寝返りなど通常発達の遅れとして観察されます。
 発達の専門的訓練は、理学療法士や作業療法士によりおこなわれますが、最良の治療士は24時間子どもと接している両親です。寝返りや腹ばい位、あるいは手足の関節運動訓練などは、専門家の指導を受け、自宅で実施するようにします。全身の緊張の高まりや、つっぱりをできるだけ抑制するように、抱きかたや寝かせかた、座らせかたを工夫します。くびのすわりや緊張の程度によっては、特殊な座位保持椅子が、緊張をコントロールして、発達をうながすのに役立つことがありますので、専門家と相談するとよいでしょう。

 専門施設に短期間、親子ともに入園して訓練や生活の注意について、体験指導を受けることもすすめられます。
 成長に伴い、保育園、普通学校や養護学校への就学、卒業、就職といった時期に、社会参加についての問題を生じることがあります。そのつど、福祉事務所、児童相談所、教育委員会、職業安定所、各種更生施設などの職員と接触し、障害に応じた助言を得ながら、一般社会の一員として生活することを目指すようにします。

(執筆・監修:帝京大学医学部リハビリテーション医学講座 准教授 中原 康雄)
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