腰痛症のリハビリテーション 家庭の医学

 腰痛症の原因疾患は、数多くありますが、慢性的な腰痛の多くは、筋肉低下が関係します。痛みを感じるしくみは、心理的なものですので、精神的な要因も関係します。急性発症するもの、だんだんと悪化して神経症状を伴うもの、発熱を伴うものなどは、専門病院で精密検査と治療を受けることが大切で、そのあとリハビリテーションを受けます。
 ここでは、X線検査で腰椎の変形が多少なりともみとめられる中高年者の腰痛症の運動練習について紹介します。

■日常生活における注意点
 腹筋や背筋の力が弱ると、起立歩行時のバランスから、腹を突き出して歩く(腰椎の前彎〈ぜんわん〉)ようになります。この姿勢は、各腰椎椎体間の椎間関節に、ストレスを与えます。骨盤の上の縁(後腸骨稜〈こうちょうこつりょう〉)にある腰の筋肉の付着部や、骨盤(腸骨)と背骨(仙骨)の間の関節や靱帯にもストレスとなり、腰痛を生じやすくなります。
 そこで日常生活における活動時の姿勢に注意します。中腰の姿勢を保つことや、荷物を持ち上げるときに、腰を落とさず、からだを前傾させて、抱きかかえるように持ち上げることは、腰に過剰な負担をかけます。荷物を持ち上げるときには、一般的には、からだを前傾させずに、一度しゃがんで、ひざを曲げた持ち上げかたがすすめられます。椅子に腰掛けるとき、やわらかで、腰を深く落としてくつろぐ安楽椅子は、腰椎間に加わる圧力や立ち上がるときには、負担が大きくなるので、座面がかためで、ひざの高さにあるものが、作業用には適しています。
 ただ、どのような座位においても、長時間の座位保持は、腰痛の原因となるので、1時間に1回は、他の姿勢や運動・ストレッチを取り入れるとよいです。また、長時間の立位姿勢が続く場合でも、片足を踏み台の上に交互に乗せて作業をしたり、合間にしゃがむ運動をおこなうなど、同じ姿勢を続けない工夫も大切となります。
 寝るときは、やわらかで心地よい敷布団では、臀(でん)部が沈み股関節は屈曲傾向になり、腰椎の前彎をさらに増大させるので、かたい敷布団が適切です。むかしから腰痛時には、戸板に毛布を敷いて寝る、といわれてきたのは合理的な話です。

■腰痛症の運動練習の方法と注意点
 次に、脊椎(せきつい)を支える力を高めるために、筋力を強化し、同時に柔軟性も高めることを目的とした運動練習を、日に1~2回、1つの運動につき5回くらいから始めて、徐々に回数をふやしていくようにします。運動により痛みが強くなる項目は、中止します。
 痛みに対しては、蒸しタオルをさらにタオルでくるんで患部に当てると楽になります。脊椎の支持性を高めるためには、コルセットの装着が有効ですが、長期的には、腰腹部の筋肉を使わないことで弱るため、痛みが軽くなったら、はずすほうが賢明です。
 病院に行くと、骨盤の牽引(けんいん)療法や、各種温熱療法あるいは薬物療法が処方されますが、日常生活での注意事項を守ることと、運動練習を続けることが、もっとも有効な治療法です。

(執筆・監修:帝京大学医学部リハビリテーション医学講座 准教授 中原 康雄)
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