寝たきりのリハビリテーション 家庭の医学

 寝たきりの問題は、寝かせきりにさせられている高齢者が多いことです。高齢者では数日床についただけで、廃用症候群を生じ、体力の回復が困難になることから、どのような疾患であろうと、早期にリハビリテーションを開始する必要があります。その方法は、脳卒中のリハビリテーションで解説しています。脳卒中のリハビリテーションを参照ください。

■からだを起こさせる方法
 かぜをこじらせたり、下痢をしたり、転んで、骨折はないけれども、足腰が痛むといった理由でも、臥床していると寝たきりになる危険があります。
 座らせておくためには、ギャッチベッドといって機械的にベッドを3つ折りにして、座位をとらせる装置が便利です。それがなくても、畳に敷いた布団の上でも、座椅子などを利用して、背中を支えてあげれば、座位をとらせることができます。日中は、すこしでも自分で立って支えることができる場合には、車椅子に乗り移らせたり、ふつうの椅子に座らせておきます。全部介助する必要があれば、リフターを利用します。
 地域によっては、公的機関による在宅介護用リフターの貸出制度があります。特殊ベッドなどの介護用品の貸出制度もあります。福祉事務所や役所の福祉課に連絡して、手続きについて、たずねてみるとよいでしょう。高齢者所帯で介護のために、家事に手が回らなくなるような場合は、ホームヘルパーの派遣制度もあります。

■精神的介護ケア
 長く寝かされていると、認知障害が目立つようになってきます。はじめは抑うつ気分があったかもしれません。老年期には、病気をきっかけに、体力のおとろえや、親しい社会からの孤立を実感させられ、自分の役割を見いだせなくなり、気分は落ち込みます。時に正気に返ると、気づくのはおむつをして、寝かされている自分です。起きる気力も湧かず、座らされていても、目を閉じたままで、こころは過去の思い出の世界に住んでいるようです。このような人の場合には、介助者のこころが鋭敏に反映されます。
 患者さんを大切に介助し、まめに話しかけることを心掛けます。話の内容は、見当識(けんとうしき:今日は何年、何月、何日、何曜日、ここはどこ、わたしは誰など)に関する情報から、家族共通の思い出として、ある出来事や大切な人の思い出など、回想を引き出す話題を選びます。同時に関節可動域(ROM:range of motion)訓練や、体位の定期的な変更、介助しての座位保持、車椅子に乗せて戸外散策など、身体的なはたらきかけもおこないます。こうしたはたらきかけを通じて、自発性を回復し、活動的な日常生活を取り戻す人もいます。
 いずれにしても、寝たきり状態にある患者さんにも、活動的な過去があり、いまも人間としての尊厳は保たれていることを、十分に認識して介助することが大切です。

(執筆・監修:帝京大学医学部リハビリテーション医学講座 准教授 中原 康雄)
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