視床下部・下垂体の病気 家庭の医学

解説
 脳下垂体は重量1g程度で、トルコ鞍(あん)と呼ばれる部分にあります。下垂体は前葉と後葉に分けられます。前葉からは成長ホルモン(GH)、プロラクチン(PRL)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン:LH、FSH)が、また後葉からは抗利尿ホルモン(ADH)が分泌されます。これらの下垂体ホルモンは、それぞれに対応する視床下部ホルモンによって合成や分泌が調節されます。

●主要なホルモンの作用
組織ホルモン作用
視床下部副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH) ACTH分泌刺激
甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH) TSH分泌刺激
成長ホルモン放出ホルモン(GRH) GH分泌促進
ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)ゴナドトロピン(LH、FSH)分泌刺激
ソマトスタチン(SRIF)成長ホルモン分泌抑制、インスリン分泌抑制ほか
下垂体前葉成長ホルモン(GH)成長促進作用、代謝促進作用、たんぱく同化作用
甲状腺刺激ホルモン(TSH)甲状腺ホルモン合成、分泌促進、甲状腺重量増加
プロラクチン(PRL)乳汁産生
黄体形成ホルモン(LH)女性の場合、排卵促進、黄体形成
男性の場合、テストステロン産生
卵胞刺激ホルモン(FSH)女性の場合、卵胞発育(エストロゲン産生)
男性の場合、精子形成
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)副腎コルチゾール分泌刺激
下垂体後葉抗利尿ホルモン(ADH)水再吸収促進(腎)
オキシトシン(OXT)陣痛誘発、促進、射乳作用
甲状腺甲状腺ホルモン(T4、T3代謝調節作用、成長促進作用、神経系発達促進
カルシトニン血中カルシウム低下作用
副甲状腺副甲状腺ホルモン(PTH)血中カルシウム増加作用(骨吸収促進、カルシウム排泄抑制、ビタミンD活性化作用)
副腎皮質コルチゾールナトリウム貯蓄作用、糖新生作用、免疫抑制作用ほか
アルドステロン血漿量の維持(ナトリウム貯蓄作用)、カリウム排泄促進
副腎アンドロゲン(DHEAほか)たんぱく同化作用、男性化作用
副腎髄質アドレナリン脈拍促進、血糖上昇作用
ノルアドレナリン血圧上昇作用
膵臓インスリン糖利用促進、たんぱく同化作用ほか
グルカゴン血糖増加作用
卵巣卵胞ホルモン(エストロゲン)乳腺、子宮、腟の成熟、機能維持、骨量維持作用ほか
黄体ホルモン(プロゲステロン)女性的性格形成
睾丸男性ホルモン(テストステロン)生殖器官の成長促進、男性化作用、男性的性格形成
そのほか心臓からは利尿ホルモン(ANP、BNP)、脂肪細胞からは生理活性たんぱく質であるアディポサイトカイン(レプチン、アディポネクチン)、消化管からは胃酸分泌促進作用をもつガストリンなど数種類のホルモンが分泌される。成長ホルモンでつくられるインスリン様成長因子(IGF-1)は肝など複数の組織でつくられる。ビタミンという名前がついているが、ビタミンDはホルモンの一つで、腎臓で活性化される
*アドレナリン、ノルアドレナリンはそれぞれエピネフリン、ノルエピネフリンとも呼ばれる


 視床下部は第3脳室の底部にあり、体温調節、食欲調節、飲水調節、自律神経機能調節をつかさどるほか視床下部ホルモンをつくる場所です。視床下部ホルモンにはGRH(成長ホルモンの分泌を刺激するホルモン)、ソマトスタチン(成長ホルモンやインスリンの分泌を抑制するホルモン)、TRH(TSHの分泌を刺激するホルモン)、CRH(ACTHの分泌を刺激するホルモン)、GnRH(ゴナドトロピンの分泌を刺激するホルモン)などがあります。いずれも視床下部の神経細胞でつくられます。視床下部と下垂体の間にある特殊な血管系によって、視床下部でつくられた視床下部ホルモンは下垂体に運ばれ、そこで下垂体ホルモンを産生する細胞に作用して分泌を調節します。

 GHはGRHにより分泌が刺激され、ソマトスタチン(SRIF)により抑制されます。同様にTRHはTSH、CRHはACTH、GnRHはゴナドトロピンの分泌を調節します。PRLの分泌調節はすこし異なり、ドパミンによって視床下部から抑制的な調節を受けています。視床下部ホルモンの分泌は、さらに中枢の神経系によって調節されます。したがって、視床下部・下垂体のどちらが障害されても下垂体ホルモンの分泌が低下します。
 いっぽう、下垂体後葉ホルモンである抗利尿ホルモン(ADH)は視床下部でつくられ、その軸索の末端が下垂体後葉に伸びて下垂体後葉で貯蔵され後葉から分泌されます。ADHは腎臓に作用して尿量を調節し、からだの水分を保持するようにはたらきます。

(執筆・監修:東京女子医科大学 常務理事/名誉教授 肥塚 直美)