妊娠のしくみ 家庭の医学

コラム

体外受精

 受精というのは本来卵管で起こる現象ですが、卵管が障害されている場合には、自然に妊娠することはできません。卵管の障害というのは、炎症(付属器炎、骨盤腹膜炎など)や癒着、卵管がつまっていたり、卵を運ぶ卵管のはたらきがわるいことをいいます。また、子宮内膜症で卵子を卵管に捕獲できなかったり、精子の数が少なかったり、精子の運動性が低かったり、免疫(めんえき)性にあるいは原因不明で精子と卵子の受精障害があるときには、通常の不妊治療ではなかなか妊娠に至りません。このようなときに、卵子をからだの外に取り出し、体外で精子と受精させ、受精卵を子宮に戻す体外受精・胚移植がおこなわれます。方法にもバリエーションがあります。
 一般的には、排卵誘発剤などを用いて複数の卵胞(らんぽう)を成熟させ、腟(ちつ)から超音波ガイド下に見ながら卵胞内に針を刺して卵子を採取します。夫から採取した精子を洗浄液で洗って運動性の高い精子を分離し、採卵した卵子と培養液の中でいっしょにして受精させます。約48時間程度培養して受精卵が4~8細胞に分裂したら、この受精卵(胚)を子宮の中に戻します(胚移植)。最近では、多胎を防ぐために戻す胚は原則1個に制限されています。妊娠が成立すれば、あとは自然妊娠と同じ経過です。
 また、あまった受精卵(胚)を次の妊娠に利用するため凍結しておくことも可能になりましたし、精子数が極端に少なかったり、体外受精が成功しない場合に、精子を顕微鏡下で卵子に直接注入する方法(顕微授精:ICSI)もおこなわれています。
 成功率は母体年齢によって大きく異なりますが、生児獲得率は12%程度です。わが国では年間約6万人以上がこの方法で誕生しており、2019年では生まれてくる子どもたち14人に1人は、体外受精で妊娠し出生しています。

(執筆・監修:恩賜財団 母子愛育会総合母子保健センター 愛育病院 産婦人科 部長 竹田 善治)
コラム

加齢の影響

 女性の高学歴化、就業率の上昇に伴い、初婚年齢や出産年齢の高齢化が進んでいます。25歳の未婚女性を対象としたアンケートでは、「何歳まで自然に妊娠できると思いますか?」という問いに対して、7割以上が40歳以上までと答えています。
 実際は40歳を超えると不妊症の頻度は6割以上、妊娠しても4割が流産になります。近年発達した体外受精による治療をもってしても生産率(生児獲得率)は1割程度にとどまり、43歳で2.7%、44歳で1.6%です。
 加齢に伴い妊娠率が急速に低下することは、社会全般に正確に知られておらず、妊孕性(にんようせい:妊娠のしやすさ)をなくしてはじめて後悔する高齢女性も少なくありません。これはわが国が性の健康教育を十分おこなってこなかったことも一因といえます。
 出生率の低下と人口の減少は、これからもますます女性の就業を必要とすることでしょう。加齢により妊孕性が急速に低下していく事実を正確に伝え、結婚・妊娠年齢が遅くなりすぎないような社会全体としての取り組みが求められています。

(執筆・監修:恩賜財団 母子愛育会総合母子保健センター 愛育病院 産婦人科 部長 竹田 善治)