新型コロナウイルス対策では、意思決定の在り方も問われることになった。政府と自治体・専門家の間で権限が曖昧なためにひずみが表面化。現在の岸田政権は、感染症対応の司令塔新設などで「次の感染症危機」への備えを強調するが、コロナ対応の検証には及び腰だ。
 ◇「畳の上の水練」
 「もう議会に根回ししている」。2020年4月、初の「緊急事態宣言」発令の直前。西村康稔経済再生担当相(当時)との電話で、東京都の小池百合子知事はこう声を荒らげた。論点は宣言時の休業要請の範囲。幅広い業種を対象としたい都に、政府が待ったを掛けた。
 新型コロナ対策の特別措置法は、知事が休業要請などを出すと規定。その一方で、国も「総合調整」を担うとした。権限の所在がはっきりせず、政府内の担当者らは運用の手掛かりを得ようと特措法の「解説本」入手に走ったが、「読んでも(実践に役立たない)『畳の上の水練』だった」(当時の政府高官)という。
 翌21年、知事による営業時短の要請・命令を可能とする「まん延防止等重点措置」が新設されると、適用自治体が続出。ただ、飲食店の酒提供の判断が自治体ごとに異なり、政府が水面下で「提供を認めるうちは、(重点措置より厳しい)宣言の発令要請など絶対にしないでほしい」とけん制する場面もあった。
 都道府県との「溝」が露呈したことを教訓に、感染症発生の初期段階から知事に対する首相の「指示権」を認める改正特措法が4月に成立。司令塔機能の強化に向けた内閣感染症危機管理統括庁の設置も決まった。
 もっとも、指示権行使は政府・自治体間の調整が付かない場合が原則。統括庁についても、野党から「現在の新型コロナ対策室の看板の掛け替えだ」との指摘が出ている。
 ◇分科会提言、政府難色
 22年夏の感染「第7波」。政府コロナ対策分科会のメンバーらは、感染者の全数把握見直しや患者受け入れ医療機関の拡大を模索した。しかし、岸田政権は対策緩和の印象を与えるとして難色を示し、分科会開催にも後ろ向きだった。
 結局、専門家の有志は同年8月の緊急記者会見で、全数把握見直し案などを公表。武藤香織東大教授は「ぜひ分科会で議論させてほしかった。残念だ」と政権の姿勢に疑義を呈した。
 こうした場面は初めてではなかった。東京五輪・パラリンピックを控えた21年6月にも、尾身茂分科会長ら有志が政府に「無観客開催」を要請。実際には春ごろから議論していたが、有観客を望む菅政権が真っ向から食い違う分科会の主張を拒み、公表がずれ込んだ。
 しかし、尾身氏らの要請に多くの世論が共感。批判の矛先は政権に向かい、幹部の一人は「まるで倒閣運動だ」と頭を抱えた。その衝撃は、後継の岸田政権への申し送り事項に「コロナ分科会の解体的再編」を盛り込んだほどだ。
 感染危機時の意思決定の在り方を考える上で、過去3年間の総括は欠かせない。だが、政府がコロナ対応を検証するため、22年に立ち上げた有識者会議の議論は、1カ月程度で終了。その後は「不断の検証を行う」(岸田文雄首相)と繰り返すだけにとどまっている。
 「いずれ施策の効果や財政への影響を含め、多角的検証を行うのが会議の総意だった。率直に言って今の対応は不誠実だ」。当時の有識者メンバーはこう断じた。 (C)時事通信社