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脳梗塞の前触れ症状を見逃さないで
~自己判断せず救急車を~ 【第10回】脳卒中の救急医療② 国立病院機構九州医療センター 岡田靖副院長

 脳梗塞は、発症する前に前触れとなる特徴的な症状が一時的に表れることがあり、この段階で適切な治療を受けることで発症を防ぐことができる。しかし、自然に症状が消失するため、あまり重要視されずに見逃されてしまっているケースも少なくない。このような症状が出た場合は、ためらわずに救急車を呼ぶことが必要だ。

「FAST」で脳卒中の症状をチェック

「FAST」で脳卒中の症状をチェック

 ◇「脳卒中、顔・腕・言葉で救急車」

 「顔がゆがんで口元がしびれる」「ろれつが回らない、言葉が出ない」「片腕の力がだらんと抜ける」「力はあるのに立てない、歩けない」―。

 このような症状が一時的に出て消失した場合は、「一過性脳虚血発作(TIA)」と呼ばれる脳梗塞発症前の特徴的な兆候と考えられる。この時の状態が脳梗塞を起こす前の最終段階で、早急な対応が必要となることから、国立病院機構九州医療センター(福岡市中央区)の岡田靖副院長は「崖っぷち警報」と呼んでいる。

 「症状が出たら急いで救急車を呼ぶことが必要です。『脳卒中、顔・腕・言葉で救急車』です。これはアメリカで『FASTによる啓発運動』(Face=顔、Arm=腕、Speech=言葉、Time=時間)と呼ばれているもので、日本でも早期発見に向けたスローガンとして使われています」

 症状が表れ始めた初期段階に早く気付き、脳が大きなダメージを受ける前の予防救急が重要だ。「この段階を過ぎてしまうと、次は再発防止しかありません。『顔・腕・言葉』に異常を発見したら、自己判断で様子を見るのではなく、迷わず救急車を呼んでください」と岡田医師。

 TIAとは、一時的に脳の血管が詰まって血液の流れが悪くなり、神経細胞の機能が停止して半身に運動まひなどを起こした状態のことだが、血栓が自然に溶けることで数分から24時間以内には症状が消失するため、軽視する人も少なくない。しかし、TIAを発症した人の15~20%が3カ月以内に脳梗塞を起こしており、そのうち48時間以内に発症したケースが5割以上を占めている。

画像検査機器を使わずに脳梗塞の発症リスクを評価できる

画像検査機器を使わずに脳梗塞の発症リスクを評価できる

 TIA発症後、早期脳梗塞を起こす可能性は「ABCD2スコア」によって予測することができる。これは年齢や血圧、臨床症状や発作の持続時間、糖尿病の有無などを数値化して発症のリスクを評価するもので、画像検査機器のない一般の医師でも診断できる。

 スコアの数値が高い人は低い人に比べて、TIA発症後90日以内の脳梗塞発症率が8倍だと言われている。そのため、TIAを発症したら医師の指導の下、生活習慣を改善するとともに適切な薬物治療に取り組むことが重要となる。

 ◇消防局との連携強化で時間短縮

 TIA発症時に用いられる「t-PA(アルテプラーゼ)血栓溶解療法」は、発症から4.5時間以内(検査時間も含む)が目安とされている。そのため、九州医療センターでは時間短縮に向けて、院内での多職種間チーム医療体制の構築のほか、院外における地域連携体制作りにも取り組んできた。「福岡県の救急救命士を対象に、脳卒中の初期対応である病院前救護の研修を年に1回行っています」

 九州医療センターでは、早い時期からさまざまな取り組みを通して福岡市消防局との連携強化に努めている。消防局では、t-PAや血管内治療対応可能な病院(脳卒中センター)を把握しているため、特に希望がない限り、直近の適切な救急施設へ搬送することになっている。病院に搬送されるまでの間、救急隊は症状の聞き取りなどを行い、「シンシナティ病院前脳卒中スケール(CPSS)」(脳卒中判別法の一つ)に沿って判定を行う。

 「当院に搬送されてきたらすぐにCTを撮り、脳出血がないことが確認できたら静脈注射を行います。来院から注射まで平均で30分程度です。また、神経症状と検査所見で血栓回収療法が必要と判断したら、直ちに血管内治療を行います」

福岡市消防局と日本脳卒中協会福岡県支部の共同パンフ

福岡市消防局と日本脳卒中協会福岡県支部の共同パンフ

 コロナ禍においても、これまでの連携の積み重ねがあるため、搬送から投与までの時間にロスは生じなかったと岡田医師は話す。「当センターでは、年間3600台ほどの救急車を受け入れています。搬送数としてはあまり多くはありませんが、入院率は7割です。つまり、入院が必要な人を救急隊が選択して搬送しているということで、当院としても可能な限り全例応需しています」

 福岡市消防局は日本脳卒中協会福岡県支部と共同でパンフレットを作成し、以下のような博多弁によるスローガンで啓発にも取り組んでいる。

 「急がないかん 脳卒中なら救急たい」
 おかしかねぇ
 ろれつが回らん
 腕あがらん
 なぁんか顔のよがんどぉ
 そら 脳卒中ばい
 救急たい!
(看護師・ジャーナリスト/美奈川由紀)


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