デンマーク・Hvidovre University HospitalのTine Wrønding氏らは、腟内微生物叢の共生バランスの失調である腟ディスバイオシス(vaginal dysbiosis;VD)を有し、染色体正常流産(euploid pregnancy loss)を繰り返す不育症(recurrent pregnancy loss)患者に対して行った腟微生物叢移植(VMT)の成功例をeClinicalMedicine(2023年6月26日オンライン版)に報告。「本症例は治療前の抗菌薬投与をせず、ドナーから移植した細菌叢の生着を確認できた初めての報告だ。VD再発症例やVDに関連した不育症患者に対する新しい治療選択肢として今後、VMTの試験を実施すべきだ」と述べている。

VDは妊娠転帰不良と関連するが無症状の患者も多い

 腟内細菌叢は腸をはじめとする他の部位とは異なり、通常、限られた種類のLactobacillus属(L. crispatusL. gasseriL. inersL. jensenii )で構成され、pHは4.5未満に維持されている。Lactobacillus属以外の多様な細菌が優勢となった状態はVDと呼ばれ、体外受精による妊娠率の低下や染色体正常流産リスクの上昇、前期破水や早産と強く関連する。VDは女性の18~29%に見られるが、症状(臭気や分泌物)のない人も多く、婦人科健診で健康と評価されることも少なくない。

 再発性の細菌性腟症5例に対してVMTを実施し、4例の細菌叢がVDから健康(eubiotic)な細菌叢に改善したとの報告はあるが(Nat Med 2019; 25: 1500-1504)、クリンダマイシンやメトロニダゾールによる前治療を受けており、ドナーの細菌叢が定着したのかどうかは確認されていない。 

死産と流産を繰り返す女性にコンパッショネート使用を提案

 今回の症例は、最初の妊娠で男児を出産したが、その後3回の妊娠で2回の死産と妊娠第1トリメスターでの流産を経験した30歳の女性。この女性は過去の4回の妊娠期間中、多量の腟分泌物や強い臭気、瘙痒、疼痛を訴えていた。スワブ検体を採取し、ショットガン・シークエンシングを行った結果、VDと確定診断された。

 Wrønding氏らはコンパッショネート使用としてVMTを提案。2021年7月(VMT実施の89日前)の腟微生物叢の検査でGardnerella属が91.3%を占め、Lactobacillus属は存在しないことが確認された。

 ドナーから移植する子宮頸腟分泌物(cervicovaginal secretions;CVS)の生着率を高めるため、in vitroの競合アッセイを実施し、Lactobacillus属優位な微生物叢を有する4人のドナーのCVSをさまざまな角度から評価し、最終的に1人のドナーを選んだ。

VMT後14日で微生物叢の構成がLactobacillus優位に変化

 事前の抗菌薬治療はせず、2021年9月の月経周期10日にVMTを実施した。VMT実施当日の腟微生物叢はGardnerella属が80.4%、14%がF. vaginaeで、CVSのpHは4.25だった。一方、VMTに用いたCVSの微生物構成は、L. crispatusが88.7%、L. jenseniiが7.2%、L. inersが4%だった。

 VMT実施後14日目で患者の微生物叢はL. crispatus 81.2%、L. jensenii 9%に変化し、CVSのpHは3.87となった。微生物叢のLactobacillus優位はその後も維持され、患者のVD症状は著明に改善した。

 2022年2月、この患者は自然妊娠し、妊娠37週5日に予定帝王切開で男児を出産した。

患者のL. crispatusがドナー由来のものであることを確認

 最後にWrønding氏らは、ドナー由来の微生物が生着しているかどうかを確認するため、一塩基バリアント(SNV)解析を行い、VMTで使用したCVS、使用されなかった3人のドナーのCVS、VMT後の患者から採取したCVSに含まれるL. crispatusのゲノムプロファイルをVMTの14日後、25日後、4週後、5週後、7.5カ月後、1年後に比較した。

 その結果、VMT後の患者から採取したL. crispatusのゲノムプロファイルは、 VMTで使用したCVSに含まれていた L. crispatusのゲノムプロファイルと一貫して似ていることが判明した。

 さらに、VMT後の患者から採取したL. crispatusのゲノムプロファイルは、使用されなかった3人のL. crispatusと比べ、実際に使用されたドナーのCVSに含まれていたL. crispatusにより近いことが確認された。

 以上の結果は、VMT後の患者の腟微生物叢で観察されたL. crispatusがドナーのCVSに存在していたものと同じバリアントであることを強く支持するものであり、VMT後の妊娠を経ても維持されていたことを示唆するものである。

木本 治